日本財団 図書館


このような超長期の需要増加に対する供給の可能性について、まだはっきりした見通しは立てられていない。

ところで、穀類は主食になるばかりでなく、家畜の主要な餌になる。現代の食生活が主食と動物性食糧を核にして成り立っているとすれば、人口増加率と穀類総生産量の増加率との関係は食糧需給の大凡のバランス状態を示しているとみてよい。1961〜65年から1991〜95年の約30年間に世界人口は約70%増加したが、穀類の世界生産量は約100%、つまり約2倍に増加した。したがって、第二次大戦後の世界は戦後の混乱期を除いて、食糧需給は分配問題を別にすれば、ほぼバランスしていたことになる。

もちろん、地域によって状況は非常に違っている。人口増加率があまり高くないヨーロッパ、北米、それに少し高めの大洋州のような先進地域は、穀類生産量が人口を大きく上回って伸びた。

逆に、人口増加の激しかったアジア、アフリカ、ラテン・アメリカのような開発途上地域では、穀類生産量はかなり伸びたものの、人口増加率と比較すると、決して楽観できる状況ではなかった。とくに、アフリカの人口は穀類生産量の増加率を越えて増加した。地域内部の事情はさらに複雑だが、それを無視すれば、地域別穀類自給率からも分かるように、先進地域が開発途上地域に食糧を輸出することによって、世界は全体として食糧需給をバランスさせてきたとみられる。

穀類生産が過去30年間に2倍になったから、この趨勢を算術級数的に延ばせば、1990年から2050年までの60年間に穀物生産量は4倍になる理屈である。人口が増え、生活水準が向上しても、穀類が4倍増産できるなら心配は要らない。しかし、この穀類生産の増加趨勢が人口増加の続く21世紀半ばまで持続できるかどうかは不透明である。

 

2. 20世紀農業

 

食糧生産は生産量=「単位面積当たり収量」(以下「単収」)*「農地面積」という簡単な数式に分解できるが、その伝統的増産方法は専ら「農地面積」を拡大することに重点をおいてきた。しかし、19世紀末までにアメリカなどの新大陸の開発がほぼ完了し、地球の農地開発に限界がみえてくると、20世紀に入って増産方法は「単収」を上げる方向へ転換せざるをえなくなった。過去約30年間に世界全体で穀類の作付面積は約6%しか増加していないのに、その「単収」は約90%も増加している。

「単収」増加のためには肥料を増投しなければならないが、従来の肥料は「有機肥料」、つまり農場廃棄物や家畜の糞尿などである。これは農業副産物だから、農産物の増産がなければ有機肥料は増産しない。しかし、有機肥料の増産がなければ農産物は増産しないのだから、ここに一つの「悪循環」がある。

これを断ち切ったのが農業部門以外で生産できる「化学肥料」である。しかし、化学肥料を大量に投下しても、それを吸収して結実する「高収量品種」がなければならない。従来の品種開発は偶然的発見に委ねられてきたが、これでは人口増加に対応した食糧増産の展望が立てられない。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION