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26:価格メカニズムからわれわれは逃れられない

 

加藤 60億の人口のうち、今でも何十億かが飢えているわけでしょう。90億になっても飢えている人の数が増えるだけではないんですか。

唯是 いや、それはFAOとかアメリカは増えないと言っているんです。いま9億というのが、6億か7億になると言っているんです。

加藤 それは食料援助するということですか。

唯是 というより、アメリカなどは、自分の国が増産するという発想なんです。オーストラリアとかカナダとかアメリカ、そういう農産物の輸出国は、結局こういう状況は非常にいいわけです。人口が増えて、食糧需給がタイトになると、もっと増産する。だから、それはできるんだという。過去30年間に食料が2倍になったように、これから60年間に4倍になるという。ただ、2倍にしたのは、いまいったように農業の工業化によってできたわけです。でも、農産物の汚染が始まったんですね。ですから、それを否定した形で過去の趨勢が維持できるかどうかはわからない。そこのところが食料危機で、本当に需給バランスが崩れると言っているのではない。ただ、バランスが崩れるかのように言って、食料の安全保障とか農業保護という議論に利用されているんです。それはどんなことをやっても、価格メカニズムからわれわれは逃れられない。

 

27:空中ブランコをやるにはセイフティネットがあった方が安心

 

ただ、セイフティネットを作っておかないと、価格メカニズムそのものも駄目になるということです。空中ブランコをやるのに、セイフティネットがあった方が安心でしょう。それと同じことです。だから今いったように、問題としてはそういう20世紀農業というのは技術的な欠陥を持っているので、21世紀にそれを克服できるか。オーストラリアとかアメリカのやり方でずっと続けていくか。それでは買ってくれないはずだ。だからそれを止めて生産量を落とすか。それをバイオで成功させるか。それが農業先進国の発想です。それを少し急いでやったために今度みたいな拒絶反応が出てしまった。

要するに、価格メカニズムというのは資源の適正配分なんです。価格メカニズムを否定したら何もない。いちばんいい例は社会主義国の失敗です。あれは資源の適正配分に失敗しているわけです。価格メカニズムは、適正配分のために使わなければならないけれど、セイフティネットをつくっておく。そこから発展して、水産も沿岸にバイオテクノロジーのものをつくったらどんなにいいだろうという夢を描いているんです。

川村 唯是先生には、本日お話いただきました内容に即しまして、「海洋と漁業資源」という論文(207頁に掲載)をお書きいただけるとのご快諾をたまわりました。講義のほうは、あたまにスーッとはいる語りでしたが、この問題は政治家、マスコミの方、また、政策立案にたずさわる皆さんには、一度きちんと勉強していただきたいと思います。そこで、この会が始まる前に、先生にお願いをいたしました。

小川 先生には、漁業資源に焦点を絞ってお話をいただきましたが、本来は、食糧問題全般、また農業問題に造詣が深い専門家です。そこで、論文の方は、食糧問題全般のオーバービューから話しを説き起こしていただき、その中で、21世紀の食糧問題の本質は何か、漁業資源の位置づけはどのようになるのかについて、論じていただく予定です。どうも長時間ありがとうございました。

〈以上〉

 

この記録は、1999年12月12日に行なわれた研究委員会の速記録に唯是先生が加筆・修正されたものです。その他の発言者の発言には速記にさいしての誤記があることがあります。文責は事務局にあります。

 

 

 

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