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学生は「あれは自衛権の行使ですか。あれは安全保障理事会の強制行動、憲章62条の発動ですか。そうじゃないでしょう。そうしたらどういうことなんですか。毎日、新聞を読んでいますが、アメリカの報道によれば、あれは戦時なのか平時なのかという質問に対して、戦時ではないといっている。戦時でないとすると平時でしょう。平時なのに何万回という爆撃をするんですか。わが国は、パールハーバーで、一時間宣戦布告が遅れて、東条さんまでデス・バイ・ハング(絞首刑)になっているのに、宣戦布告も何もしないで、あんな爆撃、戦闘行為をどうしてできるんですか?」と聞いてくる。そういう質問にまともに答えられますか。その学生は「私は、こういう教科書、こういう参考書、すべてを調べてみました。すべてを調べたけれど、そこから合理的な答えは出てこない。ということは、先生は国際社会は、国際法秩序が維持されていると言っているけれど、秩序なんかないんじゃないですか。国際法を勉強する意味は何ですか」と言われる。僕はそれに答えられる先生は一人もいないと思います。

 

21:問題解決手段が、政策論はあるが、実定法上は存在しない時代

 

私は外国に行くたびに、外国のいろいろな先生にその話をして、あなたはどう答えるかときくと、みんなげらげら笑って、答えられない。これから新しい国際秩序の中で、公益に反するような、人類を虐殺するような行為を国家がした場合には、そのことに対して制裁を加える、そういうような方式が出てくる可能性がある。でも実定法としては現在存在しない。政策論としては言えるけれど、実定法上はない。それがグローバルイシューに関する問題なんです。

つまり国家という枠組みをはるかに飛び越えた人類的な問題なんです。そういう人類的な問題に対処できる実定法というのは残念ながら今はない。だから今国際法の教科書でこの問題を説明しようと思っても、そもそも無理なんですね。そういうことを言いたかったわけです。

 

22:人類の生き残りを図るパルドー主義(1967年演説)とはなにか

 

海洋法もまったく同じ状況にあります。そういう国家間社会の「ほころび現象」の中で、どうやって人類が生き残るかということをパルドーが考えたわけですね。パルドーは1967年の演説の中で、まさにこの危機というものに対する考え方を明らかにしたわけです。私はパルドー演説のこの部分が好きで何回も言っているんですが、ある会議で英語を示せといわれて英語を出したら、お前の訳のほうがいいといわれて嬉しかった。

 

「暗黒の海洋は生命の子宮でありました。この海洋に守られて生命は生まれたのです。われわれは現在でもみずからの肉体の中に、つまりその血液の中に、また涙の塩辛さの中に、遠い過去の印を持ちつづけているのです。」そして現在の陸上の支配者である人間はそのような過去を逆にたどって、深海海底開発を行なおうとしている。そこでパルドーは言います。「深海への人間の侵入は、人間あるいはこの地球上でわれわれが知っている生命そのものの、終焉の始まりを示すものになるかもしれません」と。(1967年のパルドー演説から)

 

 

 

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