日本財団 図書館


2:地中海問題を研究する海外のネットワークが接触してきた

 

具体的な事例に、地中海問題を研究する海外のネットワークが山内先生に接触してきた話があります。そもそも、地中海は、外海との流量が少ないうえに、周辺国には産業国がひしめいた海です。1970年代に環境問題が悪化しまして、各国の科学者が中心となり、環境をなんとか回復しようと努力した。これによって、「バルセロナ合意書」が結ばれたのですが、この合意書により、周辺23ヶ国を含む国際的な海洋環境レジームが作り上げられたわけです。これが、海洋に関する目立ったネットワーク活動の発端になりました。

そして、科学者の働きが大きかったのですが、各国が環境汚染物質の総量規制を行なうというところまで持ちこみ、地中海の環境汚染に歯止めをかけた。これは、画期的な成果となりました。

そこで、このサクセスストーリーを他の閉鎖海にも適用できないかという発想が生まれたのです。そして、UNEPが世界各国の「閉鎖海アクションプラン(Closed Sea Action Plan)」をつくりました。北欧においてはバルト海、そして、北東アジアにおいては日本海と黄海などが選ばれたのです。

アジアにおける実行プランは、NOWPAP (North West Pacific Action Plan)と呼ばれています。

「閉鎖海アクションプラン」はいわゆる世界標準になりました。そこで、あるとき、アメリカ側が、山内先生のところに問いあわせてきて、日本海問題をいっしょに研究しようといってきたのです。アメリカは、日本の研究者がすでにネットワークを組んでこの「閉鎖海アクションプラン」に積極的に取り組んでいるだろうと想定していました。ところが、山内先生が状況をいろいろ調べてみると、日本には、継続的にこの問題に取り組んでいるグループはなかった。2

しかたがないので、山内先生自身がご苦労されて、日本国内の環境問題を専攻する研究者をネットワークにまとめることになりました。この話が、われわれにとって、とても印象的でした。

 

3:日本の海洋研究のネットワーク化はまだまだこれから

 

お話しをうかがっておりますと、日本の海洋研究のネットワーク化は、まだまだこれからということがわかりました。

もちろん、国際的な「海洋環境モニタリング構想」を打ち出している環境庁は、国際的な海洋モニタリング・ネットワークを作ろうとの政策を始めているわけで、98年に予算化し、韓国、中国、ロシアを含む国際環境モニタリング・ネットワークを構築しようとしている。その一環として、さきほどのNOWPAPを、日本なりにもう一度ショウアップしようとする動きもあります。しかし、日本の海洋研究は、さまざまな省庁に縦割化されていて、なかなか機能しにくいようです。

 

2 もちろんこの言い方は不正確であるかもしれない。例えば閉鎖海としての瀬戸内海に対する環境会議などが1995年に岡山で開かれ、地域ごとに積極的な取り組みの事例はあった。だが、日本人としては依然として海洋の環境問題に対する認識は必ずしも強くない。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION