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その結果、被害海鳥の漂着地を福井県と予想し、同県に被害海鳥救護のための拠点を作るべく、県担当課、県獣医師会等と協議して体制作りを行い、地元獣医科病院を利用した初期救護活動をスタートさせた。事故直後の平成9年1月9日には、最初の被害鳥の受け入れを行っている。その後、地元獣医科病院の収容能力の限界に伴い、県の自然保護センターに拠点を移し活動を進めた。

一方、石川県においては、時期を同じくして、県主導のもと地域ボランティア等の協力を得た被害海鳥の救護活動が開始されている。

このように、ナホトカ号事故における海鳥の救護活動は、当初、大きく分けて、1]環境庁及びOBICを中心とした取り組み、2]WRV等を中心とした取り組み、3]地方自治体等を中心とした取り組み、以上の3形態があった。その後、環境庁等の調整により、海鳥への影響調査及び海鳥救護活動の二本柱を一体化した官公民による総合システムとして機能した。いずれにせよ、獣医師団体等をはじめとする民間団体及びボランティアによる協力が重要な役割を占めていた。

ナホトカ号事故に際しては、被害海鳥の救護に関し、関係団体、関係地方自治体等に対して、自然・動物保護活動を行っている全国のNGO等から、ボランティアの申し入れが殺到した。海鳥の救護活動はこうしたボランティア達の協力なくしては成り立たなかったとも言える。

ところで被害海鳥の救護は、極めて専門の知識・技能を必要とする特殊な活動であると言われている。そのため、WRVではボランティア等に対し救護のための技術指導を鋭意推進する一方、環境庁では当時作成途上であった「野鳥の油汚染救助マニュアル」を急遽、関係府県に配布している。

さらに、OBICのメンバーである日本ウミスズメ研究会の招きにより、米国から研究者3名が来日し、海鳥の被害調査等を行う一方、被害海鳥に対する米国式の救護法についての講演を行うなど、海外の専門家による技術移転も積極的に行われていた。

(3) ナホトカ号事故における野生動物救護ボランティア活動の分析

前項で述べたとおり、野生動物救護ボランティア活動は、極めて専門の知識・技能を有する特殊な活動とされている。したがって、例え平素より自然・動物保護活動等に深く携わっている関係NGOのボランティア達に対しても、内外の専門家による指導、関係官庁によるマニュアルの提示等、徹底した技術移転等が図られた。

すなわち、専門性を必要とするボランティア活動に関しては、例え参加を希望するボランティア達が、平素、当該活動と関連のある一連のボランティア活動に携わっている場合であっても、彼らに対し徹底した技術・知見の移転を図る必要があることを示す一つの事例であったと言える。

また、ボランティア活動の円滑な実施のためには、末端のボランティアに対する技術・知見の提供、関係官公庁及び関係団体との調整等を行う、WRVに代表される、より専門的なボランティア集団の存在が必要であることを示す一つの事例であったと言える。

総じて、ナホトカ号事故における野生動物救護ボランティア活動は、官公民が一体となり、共通の目的意識を持って行われた一連の自然・動物救護活動の一翼を十分に担っていたと言える。

 

 

 

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