あなたにも、航海中に天候が悪化して運航に大変苦労したことがあると思います。
台風の来襲時はもちろん早めの避難、避泊をするでしょうが、冬季の季節風が強まる時、春一番などの発達した低気圧の通過時あるいは強い寒冷前線通過時などは、航海を継続すべきか、何処かに避泊すべきか、非常に迷い神経を使うことが多く、船長の判断は辛いものです。
1 船の出戻り
出戻りという言葉は、他家に嫁いだ娘が離婚し実家に帰ってくることですが、昔、海でも使われていた言葉ですので、この紹介から始めましょう。
江戸時代の大和型船は、一本の帆柱と一枚の大きな横帆を使用していたので、追い風にはよく走りましたが、途中で逆風に変わったときには、「間切り」というジグザグのコースをとって風上に向かいます。しかしその効果はほとんどなく、むしろ風下に圧流されて無理をすれば遭難の憂き目にあいました。
このような逆風になった場合は、近くの岬や島陰で「風待ち」するのが常でしたが、適当な風待ちに適した場所がないときは、もとの港まで引き返すことがしばしば行われていました。
これを「出戻り」と呼び、当時は決して非難される行為ではなかったのです。船乗りや船主、一般市民も自然に逆らった場合の怖さ、悲惨さを十分認識していたためと思われます。