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海の気象

気象庁による海洋汚染(油汚染)のモニタリング

高谷祐吉(たかやすけよし)

(気象庁気候・海洋気象部海洋課汚染分析センター調査官)

 

はじめに

 

社会経済活動の急速な工業化や多様化に伴なって、石油や重金属等による海洋の汚染が世界的に大きな問題となっています。海洋の多くは公海であるため、早くから海洋汚染の防止を目的に国際的な取り組みがなされ、「廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約)」や「船舶による汚染の防止のための国際条約(マルポール条約)」等が一九七〇年代に採択されました。

また一九九四年には海洋環境を保全するための国連海洋法条約が国際的に発効しました。わが国では一九七一年に「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(海洋汚染防止法)」が施行されています。海洋汚染の現状を把握し、監視することを目的としたモニタリングは国内では気象庁、海上保安庁、環境庁などが定期的に実施しています。

気象庁では海洋バックグランド汚染観測として一九七二年から海水中の重金属(カドミウムおよび水銀)、一九七六年から油汚染(浮遊タールボール、目視による油膜と浮遊汚染物質、油分)の観測を開始しました。これらの観測は、気象庁所属の六隻の海洋気象観測船により、日本周辺海域では年四回、北西太平洋では東経一三七度、一六五度線に沿って年二回定期的に行っています。得られた観測データは国際的にはユネスコ/政府間海洋学委員会(IOC)が推進する海洋汚染全世界的調査(GIPME)の中の海洋汚染監視計画(MARPOLMON)データとして、日本海洋データセンターを通じて広く提供しています。

ここでは気象庁の行っているモニタリングの中で、目視による浮遊汚染物質の観測、浮遊タールボールの観測成果を紹介します。

 

浮遊汚染物質の状況

 

浮遊汚染物質とは海面に浮遊する石油化学製品(発泡スチロール、漁具(特に浮標)、プラスチック、ビニール)をいいます。浮遊汚染物質の観測は、観測船の船橋(ブリッジ)から目視によって行います。浮遊汚染物質の存在量は、航走一〇〇キロメートル当たりの発見個数で換算し、各観測日の発見個数と日中の航走距離から算出します。

一九九九年の分布を図1に示します。外洋域と比較すると、日本周辺海域で多くの浮遊汚染物質が発見されています。また黒潮に続く海流によって運ばれたと思われる浮遊汚染物質が日本から遠く離れた東経一六五度でも比較的多く観測されています。船舶の運航に携わる方であれば、いわゆる潮目に多くのゴミが集まっていることはよくご存知だと思いますが、外洋においても海流の収束域(東向きの海流と西向きの海流に挟まれた海域)に多くの浮遊汚染物質が集まります。北緯五度付近で比較的多いのはこの収束域が存在することと、フィリピン諸島から東向きに流れる赤道反流の影響を受けているためと思われます。なお発見された浮遊汚染物質の種類は発泡スチロールの占める比が最も高く五〇%以上を占めています。

次に、一九七七年以降の年ごとの存在量の変化を図2に示します。日本周辺海域では一九八八年から一九九〇年をピークにその存在量は大きかったのですが、その後減少傾向を見せています。一九八八年は、マルポール条約の追加処置において、船舶からのプラスチック類の排出規制処置が定められ、海洋汚染防止法が改正された年にあたります。しかし東経一三七度線上では減少傾向は見られず、逆に北緯二〇〜三〇度の海域では変動が大きいもののやや増加傾向が見られます。

 

浮遊タールボールの状況

 

浮遊タールボールとは海洋に流出した重油等が変性して凝固し、ボール状となって海面に浮遊しているものです。

 

 

 

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