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勧告には、被害報告促進のため船舶に不当な遅延や追加的経費負担を強いらないことおよび海賊行為等を犯した者を逮捕し起訴できるよう法制度を確立すること等を明記し、襲撃を認知した沿岸国の執行体制確立のための留意事項および簡易な通報により他国領海での追跡を可能とする等の地域協力に関する具体的内容を追加した。また、ガイドには、船上での予防策、沿岸国当局との連絡手続き、通報フォーマット、安全のための十則を追加した。

他方、「海賊及び武装強盗の捜査に関する国際的なコード」の策定については、引き続きMSCが担当することとなり、検討を効率的に進めるためコレスポンデンス・グループ(CG=Correspondence Group、会議場外での互いの連絡による作業で、次回会合までの準備として用いられる。)を設立しコードの原案を策定することに合意した。

現段階でCGの調整国である英国が作成したコード案には、

イ 捜査の目的、捜査官の経験・技能の重要性等の捜査にかかる重要基本事項

ロ 人命の救助、犯人の逃走防止、現場保存及び採証等の初動捜査にかかる基本事項

ハ 採証記録及び証言録取等の具体的捜査にかかる基本事項が盛り込まれており、今後関係各国への照会結果を踏まえてコード原案が策定され、二〇〇〇年五月に開催される第72回MSC会合に提出されることとなる。

 

おわりに

 

以上のように、一九八三年から十六年間の海賊問題に関するIMOでの検討経緯につき概要をまとめてみましたが、その時々の情勢を反映して必要に応じた決議の採択や回章の策定が行われてきたことがご理解いただけたものと思います。他方、沿岸国領海内で発生したことにつき、主権との関係で他国が容易に管轄権を行使できないという国際慣習の厚い壁により、中々核心部分に踏み込めないとのジレンマがあるのも事実であると思います。

今般のア号事件には世界的犯罪組織の影がちらつき、この種犯罪の抑止は伝統的な海賊規定では十分に対応できないことを広く認識させるものであり、同時にIMB海賊センターに集まった通航船舶からの情報に基づき複数の沿岸国が行動を起こして拿捕に至るという経緯は、地域の協力体制がいかに有効かつ重要であるかを印象付けたものと言えるでしょう。

他方、事件発生地点、ア号の拿捕地点、ア号の船籍と刑事管轄権の面からは複数の国が絡む点について、今後本件がどのように処理されていき、その過程で現行国際法上どのような問題が出てくるのか、さらにその問題解決のためどのような対応を必要とするのかにつき極めて注目されるとともに、将来的にはその結果がIMOでの検討の場にフィードバックされ、法制度が整備されていくものと考えます。

また、海賊行為等の大多数は発展途上国の管轄水域内で発生しており、いずれの国もこのような行為を決して是認することはないものと確信していますが、法制度の整備と平行して、いざ「撲滅のための実行」ということになれば地域間の実務者協議や連絡体制の整備、捜索や通信連絡のためのインフラ整備、捜査知識や技能の向上等についての国際協力が不可欠であり、特に東南アジア地域については今まで以上にわが国の貢献が求められるものと思います。

IMOでの海賊問題検討の歴史は、偶然ながら当連絡事務所の歴史(一九八三年四月開設)と同じであり、今後の検討はますます実務的な面にスポットが当たるものと考えられるので、今後とも当事務所での調査研究が微力ながらお役に立てることを願って止みません。

 

 

 

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