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生まれて初めて観る子どもたち

児童演劇全国離島巡回公演

 

日本財団の特別協賛を得ての「児童演劇全国離島巡回公演」、劇団如月舎が『のらねこハイジ』(矢田嘉代子作/深海ひろみ演出)で岡山県の笠岡市の離島などを巡演した。そのレポートである。(石)

 

<9月8日・火>

笠岡市は、岡山県の最西、広島県の福山市に隣接する。午後2時フェリーの発着場である笠岡伏越港に着くと、すでに劇団如月舎のメンバーが到着していた。朝8時に大阪を発って、11時すぎには着いていたという。劇団の酒井博さんによれば「何が起きるかわからないので。ましてや船ですからね」。それにしても早すぎる。この劇団ならではの真面目さと慎重さからくるのだろう。この周到さこそ『離島公演』に最も必要な点である。

 

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大きい荷物は人力で

 

3時、笠岡伏越港発、3時50分白石島(しらいしじま)着。すぐに学校へあいさつを兼ね全員で会場下見に向かう。

劇団のトラックが体育館に横付けできない。どこからどうやって運ぶか、相談しながらの会場下見である。おまけに体育館が2階とくる。明日に備え、早目に就寝。

<9月9日・水>

今回の公演で最も大変な日。トラックを学校の近く、入れるところまで運ぶ。そこから約300m、小さいものは学校からお借りした軽トラックで、大きいものは約300m人力で運ぶことになる。

残暑の陽ざしが強い。日陰もない畑の中の道の荷運び。そして2階まで運びあげる。公演の前に疲れきってしまうのではないかと、心配である。劇団員は頑張っている。「本当に、大変だなあ」と心底から、思ってしまう。

途中、中学校の校長先生が自転車で通りかかる。「大変ですね」と気の毒そうに長い間、劇団の荷物運びに目をやっておられる。

劇団も大変だが、集まってくる児童生徒も大変である。

笠岡市が二艇の船をチャーター。一艇が岡山県最南端の島10?離れた六島(むしま)(六島小4名)と、大飛島(おおびしま)(飛島小17名、飛島中9名)の生徒を運んでくる。もう一艇が、真鍋島(真鍋小15名、真鍋中9名)の生徒を運んでくる。

港から約1?の道を炎天下の中を先生と共に歩く、でも喜々としているようすが印象的である。

開演。小・中学生117名、教職員49名、保護者36名が息をつめる。劇団員のパワフルな演技に、児童生徒が昂まっていく。

 

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終演。嵐のような拍手。終演後のバラシと荷運び。まだ暑い中、劇団員が畑の中を約1?荷運び。

別かれ。校長先生と教職員の方々、児童生徒が私たちが見えなくなるまで、手を振ってくれる。

チャーター便で、次の公演地の北木島へと向かう。

<9月10日・木>

北木島(きたぎしま)、笠岡諸島の中央に位置し、大阪城築城など石の島で知られる。

この島でも市が船を一艇を用意し、島内の遠隔地の小学校と分校の児童を運んでくる。

開演前、中学校の校長先生が「中学生でも大丈夫ですか」と心配してらしたが、中学生も喰い入るように観つめている。

終演後、その中学生たちが「私たちも、卒業式で演劇をしたい」と言ってきた。私は中学生向けの脚本を選んで3作品ほど送ることを約束して別かれた。

16時40分のフェリーで笠岡港へ。陸路で玉野市へ。宿へ入ったのは夜8時30分すぎ、遅い夕食。

<9月11日・金>

宇野港から海岸沿いに車で20分、胸上(むねあげ)小学校。本来なら分校のある石島(いしま)での公演だが、石島では会場が無いのと、本校や市教委の「生の劇を観たことがない」という強い要望で本校での公演となった。

劇団員が学校へ到着した時、分校の生徒(13名)はすでにスクールボートで本校に入っていた。

グランドで運動会の練習していた子どもたちも、体育館の様子が気になって落ち着かない。

開演。舞台に吸い込まれている子どもたち。

終演後、校長先生や教委の方々から、「またこういった機会を」懇望されたが、調子の良い返事もできなく困ってしまった。

 

生まれて初めて生の児童演劇に接する児童生徒、その視線は熱い。その視線を受けての俳優の演技、いやがおうでも芝居のボルテージが昂まっていく。

劇団の苦労も多いが、多いに報われる公演でもある。

この機会を提供してくださった日本財団に感謝をして――。

 

 

 

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