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統合したベルリンの消防

東西両ベルリンの消防局は、二九年間隔離されていて互いに何の関係も連絡も無かったが、一九九〇年七月の統合と共に直ちに両消防局長の間で正式な連絡が開始されて、両消防局を統合するための作業グループが組織された。作業グループは、両消防局を監査し、組織、活動等について比較検討を行った結果、東ベルリン消防局は西ベルリン消防局の方式に従って改革すべきである、と提案した。

両ベルリン消防局の消防隊員は、同じ心を持っており、消防局は警察の一部局であったが警察のように政治的な色合いは無かったので、統合は予定より早く三カ月で行われた。そして、前西ベルリン消防局のショルツ局長が統合後のベルリン消防局長に就任した。

ショルツ消防局長の最初の仕事は、東ベルリン消防局にいる六〇人の秘密情報機関(STASI)のメンバーを確認して解雇することであった。次に東ベルリン消防局は救急業務を行っていなかったので、三年をかけて救急救命業務を整備した。消防業務の水準は、西ベルリンと比較して余り違いはなかったが、救助技術とその装備は改善することが必要であった。

両地域における指令管制を一括して行う指令室及び車両の整備点検や修理を行う装備工場はそれぞれ一つに統合された。ドイツの各消防局では、大工、左官、電気工等の特殊技能を持つ者を消防隊員として採用しており、東側には、冬季に消防局の暖房設備を整備して、夏季には庭の草木の手入れをするだけの消防隊員がいたが、これら消防隊員は消防訓練を行って、両消防局間で移動したりして、人員の整理は行わないこととした。

消防隊員の給与は連邦法により統合時における給与基準のままとされているために、統合前の東側隊員の給与は、今現在でも同じ消防署等で一緒に仕事をしている西側隊員より一四%も低く、一部に不満の声も聞かれるが、給与だけのために働いているのではない、消防隊員として同じ自覚、勤務意欲及び目的意識を持って災害現場で共同作業をしているので問題はない、という。

東側の消防技術のほとんどが統合と同時に廃止されて、西側の方式になったが東側にも多くの優れたものがある。例えば、統合以前に東側が開発して使っていた高層ビルにおける救助技術は、その優秀さが現在再発見されている。しかし、東側では多くの消防署が不適切な場所に位置しているので場所を変えることが必要であり、消防署の数も不足しているが、予算不足のために定数まで新設するにはかなりの年数がかかるものと思われる。

まだ達成しなければならない多くの課題は残されているが、東西両ベルリン消防局の統合は見事に成功した。統合は大きな作業であったが、統合して一〇年経過した現在、ベルリン消防局は昔からの伝統を守りながら発展を続けている。

(文責 大野春雄)

 

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