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第2部 巻末資料

 

東洋経済新報社の許可をいただき『週刊東洋経済6月12日号』を掲載させていただきました。

 

異議申し立て

単なる機構いじりに終わらせてはならない

 

省庁再編法案のここが問題だ!

 

このままでは行政のスリム化はおろか、官僚の権力増大につながる

中央省庁等改革問題研究会代表  拓殖大学教授 田中一昭

 

中央省庁は、2001年1月をめどに再編成される。省庁の数が半減されるだけでなく、副大臣制や政務官が導入されるので、政治にも大きな影響を与えることになる。

政府は4月27日に内閣法の一部改正法案をはじめ各省設置法、独立行政法人通則法など一七本の法律案を国会に提出し、併せて今後の改革の推進に関する方針も決めた。

社会経済システムの抜本的改革が必要なこの時期に、長年聖域とされた中央省庁に初めてメスが入ったことは、それ自体高く評価できる。

しかし、私たちの研究会でこの膨大な法律案を精査したところ、多くの重大な問題があることが判明した。行政改革会議の最終報告(97年12月)や中央省庁等改革基本法(98年6月)の持つ問題点がここに来ていよいよ明らかになったものもあるが、一方、これらの理念や趣旨が生かされないおそれがあるものも多い。一歩誤れば単なる機構いじりに終わる危険性をはらみ、かえって深刻な事態を生むおそれもある。

さらに注意すべきは、具体的内容が国会の審査を経ない政令にゆだねられていることだ。政令にどう書かれるのか、監視が不可欠である。

 

内閣機能の強化は運用次第で大蔵支配の拡大に

 

今次改革の最大の目玉が、内閣機能の強化である。内閣官房は、従来、閣議事項の整理その他内閣の庶務や「総合調整」を事務としていたが、新たに「国の重要政策」に関する「企画及び立案」が所掌事務として明確に書き込まれる。

その結果、予算を例に採れば、予算編成の基本方針を内閣官房が企画立案する一方で、予算制度の企画立案と予算の作成は従来どおり財務省が行う。また、内閣官房の事務を「助ける」ために内閣府が置かれる。

経済財政の舵取り役の経済財政諮問会議は内閣府に置かれる機関で、内閣官房の企画立案を助けるために「調査審議」し、「意見を述べる」にとどまっている。同会議設置の趣旨を生かすのであれば、少なくとも内閣が会議の意見を「最大限尊重する」旨を明記すべきだ。

このように内閣官房は政権の中枢機関として強大な権限を持つことになる。では、どのような人材がその任に当たるのか。

内閣と命運を共にする政治任用職は内閣官房長官を含めても一五名(内閣官房副長官三人、内閣危機管理監、内閣官房副長官補三人、内閣広報官、内閣情報官、内閣総理大臣補佐官五人以内)にすぎない。総理秘書官をはじめ内閣官房の一般職員は、各省からの「優秀な人材」と行政外部からの「専門的知識を有する者」(任期付き)に求めることとしている。

なぜ行政の内からと外からとで人材の資質を分けるのか。従来のように、各省派遣による固定化した人事を継続しようとする意図か。これでは、内閣官房が強大になるがゆえに今まで以上に官僚が官邸をコントロールすることにもなりかねない。霞が関での力関係を考えれば、いよいよもって大蔵支配の拡大再生産だ。

 

独立行政法人のトップは経営のプロを充てよ

 

中央省庁スリム化の切り札として導入されたのが独立行政法人制度である。民間的経営手法を取り入れて、運営に弾力性を持たせ、効率化を追求することがねらいだ。ところが法案では長の資格を二種類置き、いずれかの資格要件でよいとする。

第一は、当該独立行政法人が行う事務事業に関して、「高度な知識及び経験を有する者」、第二は、当該独立行政法人が行う事務事業を「適正かつ効率的に運営することができる者」である。

独立行政法人はもともと国の事務を切り離して作るものだから「高度な知識及び経験を有する者」とは、当然に当該監督省庁の出身者になるので、天下りを予定していることは明らかだ。民間の経営者が長になるのは例外扱いになっている。

 

 

 

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