日本財団 図書館


実際は、あとでお話ししますが、領土問題の棚上げをもくろんでいるということですけれども、そういったような意図があって、この文言が盛り込まれたわけです。

この川奈の会談のときに橋本首相が行った提案は国境線画定。これはどういった提案かといいますと、日本はいまだ公式にはサハリンの領有権は放棄していないということになっていますが、このサハリンの南(サハリンの領有権放棄を意味する)と択捉の北に国境線を引きましょう。とりあえず国境線を引いて、返還については柔軟に対応しましょう。これが主なポイントでした。

この国境線画定案は、ロシアでも大きく取り上げられて、当初どういうものかというのは発表されていませんでしたから、一体どういった提案だったのか、いろいろな憶測が飛び交いました。これに対して、ロシア側では、ロシア国内向けに対しては領土問題は関係ない、あくまでも領土保全の原則は破らないといったことを盛んに強調して、日本に返還する可能性は全くないといったようなことを、何度もロシアのマスコミに対して主張していました。

98年11月に、日本では首相が替わりまして、小渕総理になって25年ぶりの公式訪ロが行われた。ここで、モスクワ宣言が採択されたのですが、最も注目される点は、国境画定委員会と共同経済活動委員会をつくった。これは何を意味するかというと、国境画定委員会というのは日本が主張する国境を画定するための議論を行うためのものです。共同経済活動委員会は、4島での日ロの経済活動について協議するものですが、ロシアは投資する資金がない状態ですから、北方4島での共同経済活動といっても、実際は日本側がお金を出してちょうだい、それで開発を進めてちょうだいといったような都合のいい話でありまして、そのやり方を協議しましょうといったものです。

このときに、エリツィン大統領が橋本提案に対する逆提案として出したのが、平和条約と領土問題の解決を切り離そう、2000年までにはとりあえず平和友好協力の原則と領土問題解決の意図を盛り込んだ条約を締結して、実際の領土問題については次世代に委ねようじゃないか、という提案です。以前、プリマコフさんやロシアの閣僚が主張していたトーンに戻ってしまったという感じです。

それで、このクラスノヤルスク合意が発表されたとき、私はここで代表質問をしたのですが、当初からかなり日ロ双方の間に解釈の違いというか、ちょっと双方でとらえ方が違うといったような感じがありました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION