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●プライマリーケア・グループ(Primary Care Group)

HIMPが戦略的なフレームワークという意味合いをもつのに対し、医療と福祉の連携を現場で実践する仕組みが1999年4月から導入された「プライマリーケア・グループ(PCG)」である。一部の一般開業医によって実践されていた予算保持制度を廃止し、代わって一般開業医や地域看護婦、保健婦、ソシャルワーカーなどのプライマリーケア(初期医療)専門家がチームを組み、地域内での医療や健康増進などに責任をもつ体制に変更された。地域保健局が行っていたサービス購入(コミッショニング)の権限もPCGに移される。PCGには地域人口に応じて予算が配分されることになっており、PCGでは地域の実状に応じた独自の戦略や計画を作成し、病院トラストなどとの契約でサービス購入ができるようになる。こうすることで、地域住民に近いところでの政策決定が可能となり、政府はコストの節約が規定できるとされている。

PCGは人口約10万人を目安に、全国481ヶ所に設立されている。したがって人口の少ない農村部では広い地域をカバーすることになる。PCGの意思決定を行う理事会は一般開業医を中心に、地域看護婦、ソーシャルワーカー、住民代表などで構成される。医療機関に課されている自治体との連携義務はPCGにもそのまま適用されており、理事としてソーシャルワーカーが入っているのはそのためである。これによって初期医療と社会ケアの連携が組織運営の中に構造化されることになり、長年いわれてきた医療と福祉の連携が具体的に進むことが期待されている30)。なお、PCGは発展レベルに応じて2つのグループに分けられており、まずは医療局へのアドバイスだけを行い、サービス購入は保健局が保持する形で出発するPCGもある。しかし、組織の成長とともにサービス購入にも責任をもつようになり、その時点で独立したトラスト法人として運営されることになっている。

政府はNHSを国営医療として再建させることを約束しており、1998年の政府予算見直しの結果を受けて、NHSの予算を1999-2001の3年間で210億ポンド(約3兆5千億円)増やす決定を下している。また、5年間の政権任期内に、管理部門から10億ポンドを節約し、それを現場のサービスに振り向けることも約束している31)

 

3) 対人社会サービス

政府の現代化プログラムの中で、高齢者にもっとも大きな影響を与えそうなのが対人社会サービス分野での改革である。その基本的な枠組みは1998年11月公表の政府白書「社会福祉の現代化」の中で明らかにされた32)。成人サービスについて言えば「自立の促進」「サービス一貫性の向上」「利用者本位のサービス」が3つの柱とされ、さらに「高齢者保護の推進」「ケアスタッフのレベルアップ」「パートナーシップの促進」「効率性の向上」などへの対応も目的として上げられている。この白書が出されてからすでに多くの指標や基準が導入され、それらを監督する全国組織の新設も予定されている。

 

 

 

 

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