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すなわち所得上限制限に関しては、介護給付(PSD)の方が第三者補償手当(AC)より厳しくはないといえる。

介護給付(PSD)の支給状況に関する詳しいデータは、未だ発表されていない。しかし新設されたばかりの介護給付(PSD)には既に批判があり、高齢者と高齢者福祉に携わる人々が1998年6月に出した『黒書』でも問題にされている。主な批判は、次のような点にある。

 

(a) 給付対象者の問題

国会の報告書では、ベッドやイスから自分では身動きできない要介護高齢者の数は30万人、入浴・洗顔や衣服の着脱に他者の助けを必要とする要介護高齢者の数は40万人いるとされていた(1996年)。当時の社会事業省(現在の労働・連帯省)も、こうした重度障害高齢者は、在宅維持者が43万人、施設入所者が27万人いると発表した。1996年の時点では、これら70万人の重度障害者を対象にして介護給付(PSD)を支給するとされていたのだが、創設された同給付は30万人しか対象にしていない。

 

(b) 支給額が十分ではないこと

介護給付(PSD)法の公布以前に第三者補償手当(AC)を受給していた60歳以上の要介護高齢者は、支給期限まで第三者補償手当(AC)を受給し続けるか、介護給付(PSD)を受給するかを選択することができた。5年後には第三者補償手当(AC)を受給する高齢者はいなくなるであろう。

第三者補償手当(AC)を受給している要介護高齢者は、現在19万人近くいる(最高支給額は月4,477.24フラン)。介護給付(PSD)の支給対象者は30万人であるから、要介護費用負担対象者は約10万人増えることになる。国会では、第三者補償手当(AC)に対する予算は約60億フランとしていたが(在宅維持者に対して51億フラン、施設入所者に対して8億フラン)、介護給付(PSD)支給によって増加する10万人に対して予算を増加することは発表されていない。従って高齢者団体は、要介護高齢者に配分される支給額は以前より少なくなると心配するのである。

 

(c) 介護給付は、給付受給者が死亡した時に遺産から回収されること

介護給付(PSD)は社会扶助であるために、受給者が死亡した時には、純遺産額が30万フランを超える場合には、給付を行った県が遺産から給付支給額を回収する。

社会扶助に回収権が定められていることは、逆に見れば、社会扶助が所得に対する上限額をもとにして与えられるために、高齢者が要介護費用を捻出するために所持している住居などを売却する必要がないということにもなる。

社会扶助予算にとっては回収による収入が大きく、そのためにより多くの人々に社会扶助を与えることができている。しかしフランス人は、介護給付(PSD)が回収のない社会保障制度の手当として支給されるべきだと主張するのである。

 

 

 

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