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秋田県の病院で内科医として働いた後、岩手県立宮古病院に勤め、故郷に帰らず宮古で診療所を開業した。志を立てて市長選挙に立候補。最初は一六〇〇票差で落選するが、「福祉のまちづくり」を公約に掲げて一九九七年に再挑戦して当選した。他県人が宮古市長になったのは初めて。四五歳の若さだった。

市長のイスに座った熊坂さんはあぜんとした。福祉の水準は「岩手県五九市町村中の五九位と最下位でした」と当時の惨状を告白する。これを立て直すにはカネがいるのだが、市の財政は火の車。歳入総額に占める市税収入の比率は二七・二%。歳出に占める義務的経費は五〇%を超えていた。財政事情は「岩手県内一三市の中で最下位グループでした」と打ち明ける。

「これでは公約の福祉充実はおぼつかない」と熊坂市長は一時は途方に暮れたのだが、やがて活路を見出した。介護保険の実施である。「福祉のまちづくりのチャンス到来!」と熊坂市長は躍り上がった。「介護保険は地方分権の試金石」(池田省三龍谷大学助教授)というように介護保険を活用すれば、介護保険料という事実上の自主財源を使って首長は思うままの「福祉のまちづくり」ができる。

 

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「福祉の充実は行・財政改革から」と張り切る熊坂市長。

 

行政改革で無駄を省いて福祉充実を

 

介護保険の仕組みによると、市町村は一号被保険者(六五歳以上の保険加入者)から集める保険料収入の約六倍に相当するお金を介護サービスの費用に充てることができる。また市町村はその一号保険料の水準を市町村独自の判断で決めることができる。

 

 

 

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