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「私は今日みなさんと一緒に作曲をしに来ました」とあいさつをした作曲家、しかしその後何も言わず、会場にいる近くのお年寄りと雑談などをしている。会場のお年寄りたちはいらいらしはじめ「今日は何をしに来たんだ」「何かやれ」の声、勝手に歌いはじめる人、散らばっている楽器をたたく人などざわざわしてきた。それを聞いていた作曲家、「そのリズムおもしろいですね」とひと言。なかなか本題に入らない。こんなやりとりが続く中、作曲家はお年寄りたちをじっくりと観察、彼らが発する音楽的なおもしろいアクションを取り入れた曲を作り、「こんなのどうですか」と初めて披露した。「そんなのだめだ」「もっと元気の良い曲を作れ」の反論、会場の空気が変わりはじめ、音楽家とお年寄りたちとの対話が活発に行われ、曲が完成した。

聞き手の主体性が発揮されない一方的な慰問コンサートに多少の疑問を感じていた加藤さん、お年寄り自身が考え、行動し、発言することにより自ら活力を生み出し生きがいを感じてくれればとの願いが込められたこの活動が、企業が行う社会貢献活動の今後の方向の一つと意識したようだ。

昨年、全社員参加の社会活動プログラム「マイアクションデー」を導入した。すべての社員に年に一度は社会活動へ参加するよう呼びかけているもので、「各社員の市民意識と文化的素養を高める」ことが目的。分野を問わずさまざまな社会的課題を解決するための自発的な活動とし、社員の自主性を尊重している。会社は高齢者福祉、災害復旧、環境、スポーツなど地域活動のメニューや情報をインターネット、情報紙誌などで広く提供し、活動をサポートしている。昨年一年間で約三〇件のプログラムを企画し、多くの情報を提供した。すでに三〇〇人以上の社員の登録があるという。個人の尊厳と自主性を重んじるアサヒビールの社会貢献活動が今後どんな発展を見せるか楽しみに待ちたい。

 

 

 

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