普段着の近隣型助け合い講座 No.10
「わかるふくしネットワーク」主宰 木原孝久
プライバシーと助け合いの「よい按配」
本連載で一度紹介した栃木県の足尾町。この町を徹底的に調べてみようと思ったのは、町に出て高齢者たちに聞いてみると、みんなが異口同音に「ここで死にたい」と言うのに興味を覚えたからでした。年寄り同士では危ないではないかと言っても「助け合っているから大丈夫」と取り合わないのです。
周辺の市町村の人に聞いても「あの町は特別だ」、つまり助け合いが濃厚に実践されている特別な町だといいます。そこで一年をかけて十数か所、ほとんどの地区に赴いて住民の助け合いの実態を調べてみました。
いろいろなことがわかってきました。その一つは、助け合いができるにはそれなりの環境条件が整う必要があるということです。一人住まいの高齢者が多いのですが、彼らはお互いに家を開け放して暮らしているのには驚きました。だからこちらの家の奥から向かいの家の奥まで見通せるし、「あれ、味噌がないや」なんてつぶやけば「ウチにあるよ!」と声がかかる。家を隔てる道も、せいぜい二メートル程度ですから、ほとんど家同士がくっついていると言っていいかもしれません。
どうやら私たち人間は、ふれあったり助け合ったりするには、物理的にかなり接近して生きていく必要があるらしいのです。