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表紙絵から

 

池田げんえい/1946年神奈川県生まれ。日本児童出版家連盟会員。創作『鬼の会』同人。日本デザイナー学院講師。はり絵作家。

 

平成・東海道五拾三次 その54「大津」

 

─浜大津─

例によって、拠点は草津駅前ホテル。ここからあの「目川」までは20分もかからない。ぶ厚い雲に急き立てられるようにやっと大津駅観光案内所の前。「スミマセン」と入ると中のおばちゃんから「なぁーに」の声、このイントネーションに完全に飲み込まれたまま教えられた逢坂山に入る。そこはひどく薄汚れた街道でそのグレーの脇を京阪石山線(路面)がかすめている。目的の「走井茶店」はそんな先にあった。名水がこんなところにあるとは…。店内には背の高いおじいちゃんと、よくしゃべるおばあちゃん、人の良さが動きに出て、さながら漫才のようだ。この「走井餅」の商標権訴訟に負けて現在では「名水餅」とその名を変えている。サモアリナン! となりの尼寺、月心寺の先を左折すればもう京だ。明日を楽しみに石山線で浜大津に出た。すべては明日、今日は早めに草津に帰ろ。

 

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安藤広重絵「大津(走井茶屋)」

 

大津は琵琶湖を渡って運ばれる産物の市で賑わった。店の前を通る牛車は京都へその荷を運ぶところだろうか。絵左下にわき出る井戸は谷川や山からの走り水。旅人たちは、のどを潤し走井餅をほおばって一服したのだろう。

 

 

 

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