推せん・中田寿子さん(大阪府)
著者は、自らを「お四国病」という。平成2年に初めて遍路として四国を歩いてから、仕事の合間を縫っては四国に渡り、さらに退職を機に全行程徒歩でのお遍路旅に出た。本書はその紀行文。自然との出会い、人とのふれあい、そして自分との出会いなど、信仰とは関係なく四国遍路の魅力が伝わってくる。
「今日はよく晴れているからきっと見晴らしがいいじゃろな。向かいには、今行って来た鶴林寺も見えるし、東の方には和歌山の方も見えることあるんよ。ちょうど高野山と向き合うてるんやな。こっちは西の高野と言うけんね。それにしても一人で大変じゃの。気ィつけてな。わしら歩いては、とてもよう登れんけんね」
左足をひきずるようにしながら、その人は集落の方に歩いていった。
その日は宿を出発してから、お寺の人以外に誰ともロをきいていなかった私は、その人の言葉に元気をもらったような気がした。そして、緑の空気を存分に吸いながら山道に入って行くと、こころなしか、谷の流れの音さえ心地よく響いた。草いちごや藪こうじが赤い実をつけて山道を彩っているのもなんだか嬉しかった。」
(本書 第一章「阿波の道」より抜粋)
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