エッセイ 老いのつぶやき・胸の内 本間郁子
特別養護老人ホーム編 5]
人生の最後は夫婦共に暮らしたい
重度のパーキンソン病を患うKさん(女性、76歳)は、特養ホームに入居して10年になる。パーキンソン病を患って25年、時間が経つにつれ病状はゆるやかに悪くなっていく病気である。2年前に比べると、一人でできていたことができなくなっていることがいくつかあるということに私も気が付いている。声が出しにくくなり小さい声でしか話せなくなったし、水のみで水を飲むのも手の震えが激しくて口元に持っていくのが大変だったり、こぼしたりするようになった。そして今では、背筋が弱くなりほとんどベッドに横になっているが、寮母は床ずれを防ぐために2時間に1回はベッドから車イスヘ動かしている。しかし30分経つと、背中が痛くなり座っていられない状態になる。それでもKさんの日課は、朝、目が覚めると新聞を読みきちんと着替える。テレビのニュースはほとんど聞いているので介護保険の内容についてはホームの中で一番知っている。身なりは、きちんとしていて、明るい色の服にいつもきれいなスカーフをしているので、私は、「Kさんはいつもステキにしていらっしゃいますね」と言うと、恥ずかしそうに、「ハデでしょう ? 娘がいつも持って来てくれるの」と言う。「そうなんですか。だからいつもセンスのいい服なんですね」と私が言うと、Kさんはうれしそうに「娘は、生まれた時から耳も聞こえなくて、話もできないけれど今は結婚して子供が一人いるの。今まで、娘とは手話で話をしていたけど、私の手の震えがひどくなってきたので、手話ができなくなってしまった。