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エッセイ 老いのつぶやき・胸の内 本間郁子

特別養護老人ホーム編 4]

老いの阪神淡路大震災

 

4年前の1月、阪神淡路大震災が起きた時、Kさん(女性、当時87歳)は神戸市の古い借家で一人暮らしをしていた。家は全壊し、Kさんは瓦礫の下敷きになったが、うめき声に気付いた近所の人たちによって助け出された。

Kさんは、すぐに近くの小学校の体育館に収容されたが、体力の消耗が激しく歩けなくなってしまった。そのまま寝たきりの状態になっていたが、介護も行き届かない状況で、かなり悲惨な状態に置かれていたようであった。こんな状態で1か月ほど経ったころ、心配した東京に住む姪の家族がKさんの様子を知るために訪ねてきた。

地震の前までは、自活し、気丈に暮らしていたKさんのあまりの変わりように驚いた姪は、取りあえず東京の自宅に引き取る決心をした。しかしながら、いろいろな家族の事情から、寝たきり状態になったKさんの介護を自宅で続けていくには無理があった。区役所の特別な計らいで間もなくKさんは、特養ホームに入居することができた。

特養ホームで、Kさんの体力はみるみるうちに回復し、入居して3か月目にはゆっくりだが自分で歩けるようになり、トイレも自分で行けるようになったのである。

ただ、Kさんは他の入居者とどうしても打ち解けることができない。話しかけても「そうだね」ぐらいしか返事をしないし、決して自分から話しかけたりしない。主任寮母にだけは食事に行きたいと言って、時々一緒に出かけることもあるようだが、かたくなな態度を崩そうとはしないのである。

 

 

 

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