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そうすると、“先生は何にもせんと、棚からぼた餅取って食べてきたということ ? ”と聞かれるんですが、そうじゃない。ぼた餅が食べたければ、お皿を用意しておかないと、棚から落ちてきたときに、ベタッと地面に落ちてしまって取れないじゃないですか。だから、常にお皿を用意しておく必要があるのだと。私の場合は、自分の能力を生かしたいと“英語を磨く”というお皿を用意していたから、法廷通訳を代わってくれないかというぼた餅が受け取れた。そして法廷通訳人として一生懸命やってきたことで、いい仲間との出会いがあり、協会を設立するまでに至ったし、専門分野ができたことで大学で教鞭を執ることもできるようになった。つまり、目の前のことに一生懸命取り組んでいれば、道は必ず開ける。それがこの一五年で、私の得た教訓なんです」

どんな人にも潜在能力はある。それを生かすか生かさないかは、長尾さんの言う通り、地道な努力の積み重ねにあるのだろう。そしてどんな形であれ、社会とのかかわりを持つことは、その人の人生を素晴らしいものに変える。目の前でにこやかに微笑む長尾さんが、そのことを見事に証明していた。

 

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長尾さんの家族。左から2番目の次女の亜理沙ちゃんは養女。タイ人女性と日本人男性の混血児だという。

「法廷通訳を務める中で、親に捨てられた無国籍の子供が多く存在することを知って、自分にできる範囲での援助をと思い、4年ほど前に児童福祉施設に申し出て引き取りました」

 

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「養女をもらうことって、そんなに特別なことだとは思いません。むしろ、子育てがまた一からできて楽しいですよ」と屈託なく話す長尾さん。

 

 

 

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