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エッセイ 老いのつぶやき・胸の内 本間郁子

 

特別養護老人ホーム編 3]

イ・ノ・チに寄り添うボランティア

 

今年の3月、3年前に入居者の聞き取り調査を行った特別養護老人ホームを再び訪ねる機会があった。このホームには、私の調査に協力してくれたYさん(女性、当時89歳)がいるので会うのをとても楽しみにしていた。ところが、特養に行ってみるとYさんは2週間前に亡くなられたという。話し相手として最後まで支えていたボランティアの2人に会って、亡くなるまでの状況を聞くことができた。

Yさんは、夫と離別後、小料理屋を切り盛りしながら息子3人、娘1人の4人の子供を育てた。2人の息子を戦争で亡くし、末娘は養女に出した。1人残った息子は、医師になりYさんの誇りになった。Yさんの小料理屋はにぎわい、著名な人もよく訪れていたらしい。小説家の色紙や芸術家の書いたのれんを大事に持っていたのを私にも見せてくれたことがある。Yさんは、気丈で思いやりがあっておしゃれで自分の生き方をしっかり持っている強い人であった。特養を選んだのも自分の意思だった。「私、ここにいられて、本当に幸せよ。もうどこにも行きたくない」といつも言っていた。持病の心臓病の発作が起きると、苦しくなるので入院するが、病院ではしきりに淋しさを訴え、気弱な言葉で訪ねてくる寮母やボランティアの手を握りしめ、ほおずりをして離さなかったという。

頼りにしていた一人息子は、63歳で脳出血で倒れ下半身まひ、言語障害の身になり面会にも来られない状態になってしまった。また、養女に出した娘も、遠くに住んでいるため頻繁には来られなかった。

 

 

 

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