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措置から契約へ

 

現在、介護は措置制度で運営されているため、措置制度下での特別養護老人ホームのサービスは、国が定めた運営基準を下回らない限り、誰も不服は言えない。従って、特別養護老人ホームの経営者は、利用者の意向よりも運営基準のチェックを行う行政に顔を向けていればよかった。さらに施設整備のための補助金や、施設運営のために必要な資金が措置費として行政から支給されており、当然のことながら、行政依存体質が身に付いてしまった。

また多くの特別養護老人ホームではデイサービスや在宅介護支援センターなど在宅サービス事業を兼営・併設している。ところがこれらは市町村事業であるため、社会福祉法人が市町村から委託を受けて実施しており委託を受けた地域は独占市場となる。

このように行政の保護と行政への依存に支えられてきた施設運営であるが、二〇〇〇年四月の介護保険の実施とともにそれらはすべてなくなり、施設自身が利用者を探し、他の施設との競争の中で運営を行う必要に迫られる。またそのために市民から望まれるサービスを提供し信用を得ることが重要となる。信用できない相手とは契約しないという、ごく当たり前の原理が、やっと福祉事業にも通用する時代になるのである。

 

介護保険におけるケアプランの意味

 

新聞や雑誌などで注目を集めているにもかかわらずケアプランに対する福祉事業関係者の認識は甘い。中島健一日本社会事業大学助教授の調査報告によると、全くケアプランに取り組んでいない施設が四六・九%もある。ケアプランを単なる介護サービスの組み合わせ表だと思っている関係者も多いようだ。ケアプランは利用者やその家族の合意なしには成立しないことになっている。ケアプランに記載されたサービスは完全に実施されなければならず、さらに利用者は納得のいくまでケアプランを作り直させることができる。つまり、双方の合意によって作成されたケアプランは、介護サービスの内容を記載した契約書の意味を持つのだ。利用者は従来のように与えられたサービスを黙って受け取る必要はない。むしろケアプランどおりにサービスが提供されなければ、契約を打ち切ることもできるのである。

 

 

 

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