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第10章 GMDSSに用いられる通信方式の概要

 

「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」は従来の遭難通信のための船上の無線通信装置を考慮しながら、遭難と安全通信には何が必要かを根本的に検討し、最新の電子通信技術(ディジタル通信技術、マイクロプロセッサを中心とするコンピュータ技術、マイクロ波技術、衛星通信・測位技術)が総合的に使用されている。そして、最低限の遭難警報は、自動的に送出され、さらに特に知識のない人でも送出ができ、余裕のあるときには簡単な操作で救助に必要な情報が付加できるように考えられている。

ディジタル技術の一つは、ディジタル選択呼出し(DSC)である。これは一般の通信の呼出しに加えて遭難呼出しを同じ装置で特別の警報と遭難船の識別を付して行えるもので、簡単なキィの操作でその呼出しに遭難位置と遭難の種類などを付加することも可能になった。このDSCについては艤装工事及び保守装備編1・2・2を参照されたい。

さらに、狭帯域直接印刷電信(同1・4参照)衛星通信での高・中・低速のデータ通信、非常用位置指示無線標識装置などもすべてディジタル技術で、近い将来には、音声通信のディジタル化も行われるようになるであろう。GMDSS用の機器は回路の制御用などにマイクロプロセッサとディジタルメモリを内臓している例が多い。例えば518kHzで海上安全通信を受信するナブテックス受信機(同1・3参照)は、送信の最初に付加されている地域コード、警報と情報コード、各警報と情報コードの送信番号を判断して、必ず受信すべき警報と要求情報のみを一度だけ印字する制御がなされている。

マイクロ波の利用では、VHF無線電話が、近距離の遭難警報のほかに、遭難現場での連絡の通信に全面的に使用され、遭難船と生存艇へのホーミングはレーダーによることになり、レーダー・トランスポンダーが使用される。これは、現在の船舶ではレーダーは不可欠の航法機器であり、また、一般には3cm波レーダーが最も多く、船舶上装備されていることから、レーダー・トランスポンダーは3cm波のレーダーに対応する機器となり、それにともなってレーダーも3cm波帯のものが船舶には必ず必要とされることになった。

すでに多くの船舶で用いられてインマルサット海事衛星通信の船舶地球局(SES)の内の電話、中低速データ通信、ファクシミリなどの業務を行う標準Aのほかに、無指向性の空中線が使用でき、低速データ通信ができる標準Cが導入され、前項のナブテックス受信機と同じような機能を持つ高機能グループ呼出(EGC)受信機も併置される。

 

 

 

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