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母親は不安になり、連絡先に電話をかけてもつながらず、父親は行方不明になってしまいました。途方に暮れてしまった母子3人、これからどうして食べていけるのだろう。母親の働いているお金では、細々と食べていくのがやっとの事で、一番の問題は、今お腹の中にいるあと4ヶ月で生まれてくる子供の事が心配でした。貯金しているお金なんてどこにもないし、病院で生めばお金がかかるし、母親はもうどうしようもなくなり、近所にあるいつも姉と兄を預けているお寺さんに相談に行きました。母親は、お寺さんにこう言ったそうです。「お父さんがいなくなってしまって、このお腹の子まで育てていけないから、下(お)ろしたいんだけどどうしたらいいんだろうか」。お寺さんは、母親の話をびっくりして聞いていましたが、起きてしまった事はしょうがないと思い、いろいろとアドバイスをしてくれました。そして最後にお寺さんは、「これから生まれて来る子を、下ろそうなんて思ってはいけません。お腹の中で、赤ちゃんは生きよう生きようとがんばっているのですから、お母さんも一緒にがんばりなさい。」と母親に言ったのでした。普通、6ヶ月頃になると妊婦は中絶できるはずがないのですが、多分母親は、お寺さんに相談に行かず一人で考えて行動していたら、6ヶ月でも中絶か何かしていたと思います。

 

 

 

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