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御幣飾りや供えに抜かりがあると神が祈りを受けてくれぬこともあり、準備といっても、大変重要な部分であると考えられている。

 

◎神々と妖怪たちの御幣◎

中尾貞義太夫のまとめた『古式御幣の裁ち方かざり方覚え帳』には正続合わせて約一六〇種の幣の切り方がのせられている。何と多い種類の御幣の形があるのかと驚かされる。しかもそこには「別府中尾伝」と書き添えられている。中尾貞義太夫の住む別府(べふ)集落の中尾地区の伝承であるとの断り書きである。御幣の切り方は地区によって異なるものがある。別府でも柿の火手(ほて)、杉熊という別の地区、また下流の市宇(いちう)、別役(べつちやく)などの集落ではまた違った形の御幣が伝えられていたのである。それぞれの地区に百種を越える伝承があると考えると驚いてしまう。しかし、実際には似たものもあり、各地の伝承はほぼ消滅している。だがそれでもいざなぎ流の御幣の形は、そのようなものまで含めると五百を下らないのではないかと思われる。

中尾伝の幣を、神霊の種類によって大ざっぱに分類すると、次のようになる。

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家の神関係の幣が多いのは当然として、注目されるのは、人間に危険な存在である邪霊や、物部村の自然を支配する山川の神霊に対する幣がその数を上回っていることである。山川の幣には、樹木の精霊を表す幣とともに人間に危険な妖怪たちの幣がふくまれる。みてぐらは、それらの邪悪な霊をまつりこんで、排除するための幣なので、合わせると八○種は、人間にマイナスの作用をもたらす神霊に関わる幣ということになる。

 

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7]水神おんたつの幣(中山義弘太夫作)

 

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8]水神めんたつの幣(中山義弘太夫作)

 

 

 

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