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かならず一節あるように竹を切り、また皮は除かない。これに白幣をつけて束ね、荒神の神木まで持参し神事をいとなむ。藁蛇を神木に巻きつけ、幣束は、これと神木のあいだに立てられる。

【事例】同只同郡日吉津村富吉では、正月十一日に、女性が氏神蚊屋島神社から「悪魔退散」と記した紙のお礼を受け、これを幣のようにして長さ一メートルほどの青竹にはさみ、項上にはサンダワラをのせて荒神や地区の入口に立てて廻る。

【考察】正月の年神祭りに、竹迎えと称して恵方という方角を選び、その方向の山から竹を採って神木とするところは、山陰地方一円にみられる。その例をあげると大田市五十猛町のグロは、(写真19])竹を根から採り、これを立て、その下方の周辺を笹や雑木とゴザ(茣蓙)で囲んで小屋を作りこの中に籠って年神を祀る。(写真20])正月十五日を中心に行われるこの祭りの翌日、これを焼いて神を送るが、このトンドさんにおける竹が重要なものとなっているのは、これが神霊を迎えて送るにふさわしいからであり、その理由は、竹の成長力と生命力に併せて節の間の空間が、霊力の籠るに格好のものとする観念があるからと考えられる。

このセンボク(神木の訛り)ともいわれている竹は、御幣と同じ機能をなしているのであり、いわば竹の御幣の古形ともいえるものだが、竹のこの霊力を秘めた生命にあずかろうとする行事は多い。鳥取県八頭郡船岡町では五月三日の祭礼における神輿の巡幸に、若者五名が、太青竹で力いっぱい、大地をたたきながら地区内を巡る。出雲大社の正月行事のひとつ番内さんでも、青竹で大地をたたく。(写真21])島根県大田市大田町の喜多八幡宮の祭礼では、幟行列に、これに参加する氏子は、青竹を持って歩く。山陽側でも広島県三原市の妙見神楽では、頭屋の庭に竹柱を立て、これに幣をつけて神霊を送迎する。これは、山口県玖珂郡の行波(ゆかば)神楽にもみえる。

この竹を用いる民俗文化は、藪神、ヤブ焼き、ヤブコバといった伝承や焼畑・畑作農耕との関わりが濃く、華南のイ族、苗族などの山岳少数民族の生活文化と共通するところがある。(註7])先の鳥取県西伯郡の事例地区に間近い、大山町のウワナリ打ち神事には一メートル五〇センチと一メートル、もうひとつは七〇センチの御幣数本ずつを持って海と山のあいだを往復する儀礼があるが、これはすべて木の幣串である。

 

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19]下田市五十猛町のグロを作る人々

 

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20]御幣の原型とも考えられるグロ

 

 

 

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