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◎方位と住空間の秩序◎

平遥の住宅は、中国で最も典型的に見られる四合院住宅の一類型である。強い中軸線をもち、院子(中庭)を中心に、四棟の建物で敷地を囲いこむものを基本とする形式だ。敷地の最も奥に配置されるものを正房(主屋)とする。それ以外の三棟は、東房、西房、南房のように、配置された方位を頭につけて呼ぶ。配置された四つの建物は、均質な空間ではなく、北、東、西、南の順に上下の序列がつけられる。住宅の敷地は、一般に南向きが良いとされる。主屋である正房が北を背にして、絶対方位の序列どおりに建物が配置できるからである。しかし、必ずしも南向きに敷地がとれるとは限らない。その場合には奥、左、右、前という相対的な方位に従って建物を配置する。

敷地の最北(奥)部に位置する正房は三室あるいは五室で構成される。正房への出入りは、中央の部屋からのみ可能である。門道や庁と呼ばれるこの部屋は、儀礼の場や接客の場として使われる以外は、日常的に両脇の二室への通路として使われる。

 

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図3]神壇

中に置かれている真っ赤な紙製の位牌には、「天地三界十方萬霊之神位」と書かれている。現地では一般に天地老爺と呼ばれる位の高い神だ。正月の一日から一五日まで祭祀期間で供物を供えつづける

 

そして、決して起居室には使われることはない。平遥では「神と人は同じ場所に配置していはいけない」とよくいわれるように、ここには、神々をまつる神壇が置かれ、家堂と呼ばれるのだ。(図3])また、祖先をまつる祖堂と呼ばれることもある。この場所が、さらに格子扉で仕切られていることもある。住宅の中軸線の最後部、つまり最も上位の場所には、神々や祖先が君臨しているのだ。そして、両脇の二室が家長夫妻の起居室となる。正房の前方に左右対称に院子を挟んで向かいあう建物は、「三破二」といって、三間間口の中央を壁で仕切った二室からなるのが一般的である。ここには、家長夫妻の子供の代の起居室が配置される。正房から向かって東(左)には兄一家が、西(右)には弟一家が住まうことになる。以上の三つの建物に、院子と街路とを区切る壁あるいは棟と、その一部に設けられた大街門を加えれば、住宅の基本的な単位ができあがる。

それぞれの建物の奥行きや高さは、空間の序列どおりに少しずつ増すように設計される。中軸線の左右に割り振られる東房と西房の差は、ほんの数センチ刻みの微妙なものであるが、中軸線上に展開する北房と南房の間には明らかなコントラストがつく。中でも、正房の高さが最も重要視され、隣接しあう住宅の正房の高さの差が社会的な上下関係を左右すると考えられている。

 

◎正房の高さを補う風水装置◎

平遥のまちを城壁の上から見渡すと、正房の屋根上に、一見怪しげな構築物が林立しているのが目に付く。(図4])これらの祠や壁や小屋のような構築物は、正房の高さを補正するという共通の役割をもった装置なのだ。正房の高さを補正するというのは、それを置くことによって、正房よりも高い建物を圧するという意味で、必ずしも他の建物より高くならなくてもよい。そして、それぞれが住まいに吉祥をもたらす別の役割ももっている。まずは、それぞれの役割について説明しよう。

◎風水楼(図5]6])………幅、奥行きともに五〇センチ前後、高さ一メートルあまりの磚で作った祠状のもので、中にものを入れることのできる空間がある。そこに入れられるものには二種類ある。最も多く見られるのは、一対の箸をさした瓶、櫛、鏡、箸を結ぶ五色の糸、清代の銅銭、朱沙箋という赤い紙などを入れてあるものである。

 

 

 

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