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医者が親切にみてくれて、痛みや苦しみだけはとる努力をしてくれたからここのホスピスの医者はよかったと思うだけで、本当の人間としての解放感を伴う喜びではないと思うのです。本当の癒しではないことがほとんどでしょう。このことは、私にしても医師としては反省すべきことと思ってはいるのです。あるいは医師という立場での限界であるのかとも思います。

次は俳句の会「いなご会」をやっているボランティアの方からのレポートです。「月に一度の会に最初出席され、あとの2回は病状悪化でご自分で作った句を寄せられました。会を追うごとに深い思いの句を寄せられるようになりましたが、3回のお付き合いで旅出たれました。病室を訪ねると、いつも枕元にメモ用紙と鉛筆が置かれていて、作句に励んでいる様子でした。その方が他界された数日後、奥様は2人のご子息とご挨拶にみえましたが、『主人はここで俳句と出会い、最後の1カ月は作句に没頭して時を過ごしました。それでどれほど苦しみから救われたことでしょう』と言われました」。この患者さんはこれまで俳句を作ったことなどなかったようですが、亡くなられる1カ月前に初めて句会に参加され、没頭して、病気を忘れるくらいの気持ちで取り組まれたのでしょう。

アートプログラムの一環である俳句の会が遺族から感謝されるほどの癒しの力をもっていたことに驚くとともに、参加者がたとえ一人であっても続けようという気持ちになりました。この患者さんの作られた一句をご紹介しましょう。

 

椿ひとつ落つるや廊下の闇ゆらぐ 健司

 

 

 

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