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そうすると、何か態度もぎごちなくなります。しかし、早い段階で自分の気持ちを率直に伝えようとすると、情緒的におだやかに関われる間はノーは「ノー」と言えるのです。そして忘れてならないことは、一度言ったことは決して途中で変えてはなりません。やさしく、また冷静に「ノー」と言った場合には、どこまでいっても「ノー」と言い続けることです。

 

d. 日本語のあいまいさ

日本語にはバウンドリーのあいまいさが表れているように思えます。英語では、「ノー」と言えばどこまでも「ノー」です。「ノー」をずっと言っていればいいのですが、日本語はどうでしょうか。「いやですか?」と尋ねられると、いやでも「はい」と答えるのです。これは英語とまったく逆です。英語は「いやですか?」というと、いやならあくまで「ノー」です。「はい」ではありません。「いやですか?」と聞かれて「いいえ」と答えるなら、いやではないという意味です。日本語の場合は、相手次第で(いわゆる質問のしかたで)答えが変わってしまいますが、英語はどんな質問をされても断る場合には「ノー」です。「ノー」で押し通します。これはバウンドリーの明確な言葉といえます。言葉の表現の仕方はどうでもいいのですが、バウンドリーのあいまいさが日本語に反映されているとするなら、問題はより複雑かもしれません。もし、「ノー」と言ったのだったら、どんなに和気あいあいの関係であっても「ノー」だということです。とかく和気あいあいになると、「そんな、水くさいじゃないか」と言われるかもしれません。こういう言葉はバウンドリーを巧妙に侵すために用いられるのです。“巧妙に侵す”のです。「水くさいじゃないか」と言われると、「ノー」を言うのが困難になります。そして、「ノー」が「イエス」に変わってしまうこともしばしばてす。「家族なのに」とか「友達なのに」とか、殺し文句が日本語にはいっぱいありますが、これに負けてしまうとバウンドリーは侵されてしまいます。

 

 

 

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