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そのデータは、デジタル化されてMOディスクに保存されると同時に、センター内に構築されたデータバンクヘ登録され、異常画像や判読困難な例が毎週5ないし8件程度送信されて長崎の専門家のコメントを受信できるようになっている(図22)。現在までに約100例の画像診断が長崎大学医学部から支援され、1例の甲状腺がんを発見、手術を受けている。今後は定期的な血液像の送信と、細胞診や病理組織診断が可能な顕微鏡画像の送受信が計画されている。

当初の5か年計画によるチェルノブイリ医療協力では、ソ連側の要請に基づいて緊急的に現場での医療支援活動を開始したが、特筆すべきことは、多くの日本人専門家が現地を指導すると同時に、現地からは医師等を研修のために日本に招聘し、人材の育成にも尽力してきた点である。

この招聘派遣事業は現在も継続しているが、その目的は現地の自助努力を促進させて、外部からの支援終了後も自立の道を確立してもらうことにある。現状では3か国とも社会・経済状況の好転が望めず、自立への道にはなお困難が多いが、現場で働く医療スタッフの意識改革や診断技術の向上と、患者への利益還元は着実に推進されており、今後は2000年12月を目標に現在実施している追加プロジェクトをまとめたいと考えている(表8)。

 

表8 チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトのその後

(1) ベラルーシ共和国

ゴメリ州立診断センターを中心に事故当時0歳から3歳、事故後生まれた0歳から3歳を対象に約15,000人ずつについて甲状腺異常の頻度を比較するために学校検診を継続する。事故当時の胎児約6,000人も含まれる。

ゴメリ州で多発している小児甲状腺がんの術後追跡調査と、がんの患者対照研究(がん患者約220例、対照者約1,400例)がIARCとの合同調査で行われている。一部モギリョフ州も対象に含まれる。

すでに甲状腺異常を発見された小児や、高汚染地域に在住する子供たちの継続検診を別に約2,000人行う。

(2) ロシア連邦

オブニンスク放射線医学研究所との共同プロジェクトで、甲状腺への放射線被曝線量別の集団分けを行い、それら固定集団(コホート)を定期的に甲状腺検診する。このコホート調査はカルーガ州とブリヤンスク州を中心に約3,000人行う。

(3) 国際機関

Post Chernobyl Thyroid Tissue, DNA, Blood and Data Bankの設立支援はEC、WHO、NCIとの共同で3年行う。組織登録バンクはミンスク、オブニンスク、キエフの3か所に設置されている。一方、WHO Health Telematics Projectはすでにゴメリ州立診断センターと長崎大学医学部との間で結ばれているTelemedicineを基盤に、ベラルーシ共和国内の遠隔医療診断支援と医学教育支援プログラムを2001年まで支援の予定である。

(4) その他

日本専門家の現地派遣と現地からの医師等の日本への研修招聘プログラムを継続し、人材の育成に協力している。

 

6. むすび

 

チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトは、5年間の成果として、科学的アプローチに基づく現地直結型の医療協力活動により、被曝放射線量測定、甲状腺検診、血液検査の分野における大規模なデータバンクを構築することができた。短期間の間に、約12万人に及ぶ被災地児童の検診を実施できたのは、ウクライナ、ベラルーシ、ロシア連邦3国の保健省や州保健局の支援はもとより、特に5センターの関係者の尽力と現地住民の協力に負うところが大であった。もちろん、チェルノブイリ笹川医療協力委員会の要請に応じて、ボランタリー的に約90回に及ぶ現地指導を担当した広島、長崎を中心とする延310人のわが国専門家の貢献も特記されるべきであろう。

 

 

 

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