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I. まとめ

 

オリエンタル・ミンドロでは小学校児童の血清疫学および糞便検査、一般住民の超音波検査、飼育動物の実態調査、保虫宿主動物の感染状況の調査、中間宿主貝の生息調査および殺貝作業を行った。

小学校では1学年から3学年の児童を対象として調査を実施した。ELISA陽性率はMalaboの42.9%を筆頭に依然として高い陽性率が認められたが、過去のデータと比較すると徐々に減少している。保虫宿主動物としてはラットとイヌに重点をおいた。イヌについては調査個体の重複を避けるため、飼い犬を鎖で繋いで個体を識別して糞便を採取した。ラット、イヌともこれまでの調査結果と同様にMalaboで最も高い感染が見られ、保虫宿主動物としてのイヌ及びラットの本症伝播にはたす役割の重要性が強く指摘された。中間宿主貝の生息調査はMalaboで実施し、これまで主要な貝の生息地になっていた広大な湿原は水田に開墾されていたが、その中にわずかに残った湿地に感染貝の生息を認めた。また小学校に隣接するMalibaguhan creekの起点の湿地にも感染貝を発見したが、そのコロニーを含め約1.1kmにわたるMalibaguhan creekの除草と殺貝剤の散布をおこなった。協力専門家として参加した千種雄一は、住血吸虫症罹患率の異なる4村落においてpraziquantelによる治療とその後の再感染による肝病変の超音波画像上の経時的変化について観察した。

ボホール島では小学生の血清疫学調査および中間宿主貝の生息調査をおこなった。ELISAの結果を1981年の結果と比較し、陽性率の減少を認めた。中間宿主貝のコロニーを調査したが貝は全く見られなかった。

レイテ島では集団治療のモデル地区としてパロのSRTDが調査を実施しているSanta Fe町San Juan小学校の小学校児童および地区内の保虫宿主動物の糞便検査、中間宿主貝の生息調査をおこなった。感染ブタの追跡調査により新たな中間宿主貝のコロニーを発見したが、精力的に本症の撲滅作戦を展開しているレイテ島においても未だに未調査の貝コロニーが存在していることが明かとなり、貝調査の徹底と殺貝対策の重要性が指摘される。またpraziquantel治療後の経時血清についてELISAを実施し、抗体価の変化を調べたが、治療後に10数パーセントの率で再感染が認められ、一般住民の感染の危険性が多いことが危倶された。

特筆すべきは、大竹英博が実施したミンダナオ島での濃厚浸淫地内の小学校における肝超音波診断で、ネットワーク・パターンが11例も観察されたことは従来報告のみられない新たな知見で注目に値する。ネットワーク・パターンが感染後比較的短期間で認められることは、その病理・病態を知る上で貴重な所見である。

 

 

 

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