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「行政」とは何か〜地方分権改革の中で思う〜

佐藤 竺(成蹊大学名誉教授)

 

地方分権改革の意義

 

周知のとおり、今夏膨大な量に上る法改正を内容とする地方分権一括法案が国会を通過し、来年4月1日施行されることとなった。この分量自体が希有のものであるが、単に量的にとどまらず、この地方分権改革はわが国の行政の明治以来のあり方に質的変化をもたらした画期的な改革という点に意義がある。一言でいえば、国と地方が、伝統的な上下関係・支配服従関係を脱却して、文字どおり民主国家にふさわしい対等同格の協力関係を確立しようとしたのであった。そして具体的には、これまでの国の行政を地方に一部事務配分する、権限配分する機能分担という考え方でなく、地方自治体自体が本来固有の行政を有し、それとは別個に独自の行政を有する国と対等で役割分担するという考え方に180度転換するに至った。

この転換は、いうまでもなく、改正地方自治法に新設された第1条の2に明記されている。その第1項は、まず「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」と規定する。そしてその上で、第2項は国の役割として、1]「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」、2]「全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務」、3]「全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施」に限定し、ただし「その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い」と拡大の余地を残したが、一方住民に身近かな行政はできる限り自治体に任せることを基本に役割分担し、自治体の制度の策定や施策の実施に当たりその自主性・自立性を十分に発揮できるようにしなければならないとしたのである。

ともあれ、このような規定を設けた結果、「行政」というものの中身が質的に変化するはずだというのが本稿の論点であり、この点についてはこれまでいずれの論者も触れていないのであえて試論を述べてみることにしたい。

 

学界での分権改革批判

 

ところで、今回の地方分権改革の推進の過程においてほぼ一貫して、学界ではこれが果して対等同格を実現することになるのかどうか、結局は形を変えて伝統的な過度の官僚的中央集権が存続し、むしろ強化されるのではないかといった疑念や批判が見られ、一括法案についてもそれ見たことかといわんばかりの非難の声さえ上がっている。その論拠とするところは枚挙にいとまがないが、幾つか拾ってみよう。例えば、従来の国の許可や承認は許されなくなって同意に変えられたが、事前協議の要求と相まってこれまでと実質不変という批判がある。また、改正法第245条の5で、各大臣に自治事務に係る是正要求を認め、自治体にそれに対して必要な措置を講ずる義務を課たしたが、これは自治事務の本質と相いれないものといえる。しかも、これまでは法第246条の2でこの権限を各省大臣でなく内閣総理大臣だけに認め、自治体の改善義務を伴わなかったことと対比すれば、明らかに改革に便乗した改悪のそしりを免れまい。そのほか、国から都道府県への事務事業の移譲を意図した地方分権推進委員会の第5次勧告が、各省庁の反対で完全に骨抜きにされ、市町村への移譲の検討を予定していた第6次勧告は初めからあきらめざるをえなかったことも問題とされる。さらに、地方分権の受け皿づくりを標ぼうとした市町村合併の実質的強制は、従来の財政や人事を通しての中央支配の存続とともに、何が対等同格だと、分権改革批判の論拠として多くの研究者から指摘されている。

 

 

 

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