日本財団 図書館


3 「高齢社会における納税システムの新たな一形態に関する研究」

−高齢者の固定資産税納税に係るリバース・モーゲージ手法の活用の可能性について−

 

大阪学院大学経済学部教授

前田 高志

 

I 問題の所在

高齢杜会は高齢納税者の社会でもある。それが地方税財政にとって意味するところは、一つには現行の年金課税制の見直しがなければ、今後、個人住民税収に安定した伸びを期待できなくなること、また、消費構造全体の変化を通じて消費課税からの税収にも影響が及ぶこと等の問題を生じさせる。他方、資産課税に関して留意すべきことは、一般に高齢者はインカム・フローは年金等に限られ比較的少ないものの、資産面では金融資産、住宅土地資産ともに相対的に恵まれた者が多いことである。すなわち、今後、固定資産税において課税の適正化=負担水準の均衡化は進められる過程において、固定資産税の負担に耐えきれない高齢の納税者が増加することも予想される。

表1は『平成6年全国消費実態調査報告』より(持ち家を保有する世帯主の)年齢階級別に収入、消費支出、資産保有額等をみたものである。同表が示すように、60歳代と70歳以上の高齢者は収入では全世帯平均を下回る水準しかなく、とりわけ後者のそれは(全世帯平均の)7割を下回っている。ただし、高齢者層の消費支出は全世帯平均よりは少ないものの、(全世帯平均との)乖離は収入よりは小さい。

他方、ストック面では、貯蓄残高、住宅宅地資産ともに年齢をおって増加する傾向がみられる。貯蓄残高に関しては60歳代がピークとなっており、老後生活において貯蓄の取り崩しが生じていることを示す。しかし、住宅宅地資産は70歳代においてはほぼ8, 000万円というストックが保有されており(平成元年度の『全国消費実態調査』では70歳代の住宅宅地資産額は9, 000万円を超えていた)、高齢者ほど不動産ストック・リッチであることが明らかとなっている。

ところで、固定資産税は市町村の提供する地方公共サービスに対する応益課税であり、保有する資産と(地方公共サービスからの)受益との間の何らの一般的対応関係があるものとして課税される税である。すなわち、資産の保有を前提として課税がなされるのであって、相続税のように納税のための資産売却を想定していない。しかし、今後、固定資産税課税の負担の公平化のプロセスにおいて、インカム・プア、ストック・リッチの高齢者層の増大は、固定資産税の納税に困難をきたし住み慣れた家を手放さねばならない高齢者が増える可能性を示唆するものでもある。そうした状況は固定資産税課税の本旨からみても望ましくないし、高齢者施策の視点などからみても問題が多いと思われる。

そこで、本稿では、できるだけ速やかに固定資産税課税の適正化の図るためにも、今後、急増し続ける高齢者の固定資産税納税の新たな手法について検討し、とりわけリバース・モーゲージを活用した納税システムの可能性について考察することにしたい。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION