2 「少子・高齢社会にふさわしい地方税制のあり方にかんする調査研究」
奈良女子大學生活環境学部教授
木村陽子
1. はじめに
日本では少子・高齢化がすでに進展しているが、1997年1月に公表された国立社会保障・人口問題研究所の推計(中位推計)によると、2008年より人口減少期に入る。おまけに高齢化や人口減少の程度は日本全国で均等におきるわけではない。25年後には、人口の大半は都市部に集中し、過疎地や離島においては人口が激減することが予想されている。100年後に昭和初期と似通った人口になったとしても、年齢構成などは当時とまったく違うのである。たとえば、すでに過疎化が進んでいる紀伊半島南部を抱える和歌山県には50の市町村があるが、15年後には1万人未満の市町村は6割になり、5000人未満の市町村も増える。
また、自治体の行政課題として、『ノーマリゼーションの実現』、高齢者か安心して暮らせる町づくりが重要になった。添付論文1に示すように、高齢者介護は地方分権の仕組みに最も適合する分野である。一方で都市部のベッドタウンも含めて、若い世代が継続的に流入しない限り、高齢化し、住民税も減少することは明らかである。なぜなら現在の税金はおもに賃金などの所得をもとに課税されているので、家などの固定資産はあっても現金収入の少ない高齢者が増加すると当然、担税能力が低下する。
これらはとりもなおさず、一人あたりの行政コストが高まること、地方交付税制度の負担が増大することを意味し、地方分権の時代の潮流のなかでやがて、地方交付税制度の抜本改革や税財源の委譲、自治体の合併、再編につながることになろう。
日本は自治体がおよそ3300あるという現状のままで、高齢者社会のニーズにこたえなければならない。スゥエーデンのように自治体の財政力を合併によってそろえ、自治体が課税権を持ち、特定補助金はわずかで、教育も福祉も公共サービスのメニューのひとつとして自治体住民が負担と給付を考えつつ選択する仕組みがひとつの雛型とすれば、日本の制度はその対極にある。つまり、介護なら介護、医療なら医療に限定した全国的な財政調整制度の仕組みになっているからである。
本章では、第2節で、現行社会保障制度にたいする地方自治体の関与―財政負担も含めて―説明し、第3節で自治体に関連する社会保障制度の問題点と今後の方向について述べたい。