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6. おわりに

 

今回の検討は特定データベースのものであるため、精度が良く普遍性のある指針数値は導き得ないが、加工硬化材A5083P-H32材の溶接入熱と継手耐力に関する傾向と大凡のレベルはFig.11.3によりマクロ的に理解されよう。

 

以下、若干留意事項を附記する。

 

1)溶接入熱量が増加するにつれて継手耐力は次第に低下するが、或る入熱量以上では低下傾向はサチュレートする。最低値は5083-0材の耐力値を上回っている。

乱暴な言い方にはなるが、今回の検討結果から見ると、特に異常な溶接をしない限り、特別な入熱管理なしでも、5083-H32の継手の耐力は5083-0材の耐力値を上回るといえる。

2)片面、両面、層数等の条件差には殆ど無関係である。

3)入熱に関する因子は主として電流値と溶接速度であり、電圧は2義的である。

4)造船所に於ける入熱管理

電流、電圧、溶接速度が判れば計算により入熱レベルは簡単に把握できるから、造船所では、適当時期毎にテストピースに溶接し、溶接条件〜入熱レベル〜外観検査(断面溶け込み目視検査を含む)を行い、最小入熱設定を行うことが望ましい。出来れば引張り試験を行い、耐力及び引張り強さを確認しておきたい。

5)余盛が大きい程(程度はあるが)静的引張り強さは増すが(従って受験テストピースで余盛を大きくする傾向あり)、船舶の損傷/破壊の大部分は疲労によるものであるから、疲労強度の面からは余盛は極力小さい方が良い。これと同時に溶け込み不良を生じないよう配慮して入熱設定を行わねばならない。

 

(備考)溶接による耐力低下に関する各ルールの規定

1)軽構造船暫定基準(材料の耐力)

溶接構造で溶接による耐力(降伏応力)の低下がある材料を使用する場合はこの低下した値を本基準で用いる材料の耐力とする。

2)軽構造船基準(案)(材料の耐力)

溶接構造船にあって、溶接による耐力(降伏応力)の低下がある材料を使用するとき、溶接部が最大応力位置となる場合は、この低下した値をこの基準で用いる材料の耐力とする。

3)アルミニウム合金製漁船構造基準(案)(溶接継手の耐力及び位置)

溶接構造に加工硬化材等を使用するとき、溶接部が最大曲げ応力位置となる場合は、焼き鈍し材の耐力をこの基準で用いる材料の耐力とする。

4)高速船構造基準(耐力)

溶接により接合された材料の耐力が熱影響によって低下する場合には、この低下した耐力の値をこの基準で用いることとするが、溶接後の当該材料の引張り強さの70%を超えてはならない。

なお、低下した耐力の値が確認出来ない場合には、当該材料の焼き鈍し材の耐力の最小値を用いること。耐力について、これ以外の取り扱いをする場合は、資料を添えて、主席検査官に伺いでること。

 

参考文献(P.2の1)〜4)以外のもの)

5)アルミニウム合金構造物の溶接施工管理I アルミニウム合金材料

(社)軽金属溶接構造協会

6)アルミニウムのイナートガス アーク溶接 標準溶接条件

(社)軽金属溶接構造協会

7)スカイアルミニウム(株)資料

 

 

 

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