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11. 加工硬化材の溶接入熱量と継手効率

 

1. はじめに

 

溶接による歪みや残留応力の発生を少なくする為には、溶接熱入力を出来るだけ小さくすることが大事であるが、加工硬化材や熱処理材は溶接によりかなり溶接部の強度が低下するので、これを考慮した設計が必要であり、一方継手効率を上げる為には入念な溶接入熱管理が必要となる。

アルミニウム合金船の各構造基準には、それぞれ加工硬化材の溶接による耐力低下に関する規定があり、例えば「高速船構造基準」では、「溶接により材料の耐力が熱影響によって低下する場合には、この低下した耐力の最小値を用いる……なお、低下した耐力の値が確認できない場合には、当該材料の焼き鈍し材の耐力を用いること。……」と規定している。

本稿では構造用加工硬化材A5083P-H32材に対する溶接入熱管理の指針として、若干のデータを整理したものをご参考に供することとする。

 

2. 溶接入熱量とその計算式

 

通常、溶接線の単位長さ当りのアークの入力を溶接入熱(量)Q(J/?p、J=Joule)と言う。

 

Q=60×I×E/v

茲にQ:溶接入熱(量)(J/?p)

I : 溶接電流(Amp)

E : 溶接電圧(Volt)

v : 溶接速度(?p/min)

60 : 係数

 

(備考)単位の換算

1erg=1dyne-?p  M : メガ=106

1J=107erg  N : ニュートン

=10×Mdyne-?p

1N=105dyne

=10-1×Mdyne

∴1J/?p=102N

∴1J/m=1N

 

上記溶接入熱量のうち、アーク柱から周囲に輻射される損失等があるから、実際の有効入熱はその凡そ80〜90%である。又、アーク電圧のうち入熱として有効な部分の変化は比較的小さいので、有効入熱量は溶接電流にほぼ比例すると云える。

 

3. 加工硬化材の溶接部の強度低下

 

溶接すると溶加材による溶融金属が開先部で溶融、凝固して鋳造組織を作る。この溶接金属部に接する母材は、溶接熱による再結晶粒の生成又は焼き戻しにより軟化し、強度が低下する。即ちアークの中心点では沸点近く迄加熱され、又ボンド部(溶融した母材面と溶融した溶加材との結合部)から母材側では、熱伝導により、溶融点に近い高温から室温近く迄の温度勾配をもって加熱され、その温度に応じて母材各部には金属的変化が生じる。

一般に加工硬化材では、溶接により下記のような変化が生じる。

 

1]ボンド付近は軟化し、焼き鈍し材となる。

2]ボンドに近接した領域では、母材の再結晶温度以上に加熱される為再結晶粒が生成され、更にその粗粒子化(成長)が進む。

3]熱影響部では母材のミクロ組織が変化する。

 

これを組織的に見れば3つの部分に大別できる。

A(溶着金属)-母材と溶加材が融合した合金の鋳造組織

B(軟化域)-溶接熱で再結晶粒が生成又は焼き鈍された組織

C(無影響域)-組織的に熱影響を殆ど受けていない母材の組織

 

077-1.gif

Fig.11.1

 

 

 

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