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構造物としては、材料の降伏によって生じる永久ひずみによって一般に耐久限界が定まるのであるから、降伏応力を設計上で考慮しなければならない。主要な溶接構造用アルミニウム合金の弾性限は耐力の68〜87%で、おおよそ3/4である43)。各強度計算式は弾性限以下の範囲を対象としているから、許容応力はこの値を超えることはできない。したがって、一般の規準や規格では耐力σyに対する安全率を1.5(=2/3σy)にとるが、貯槽等ではσyの80%を許容応力として用いることもある。

一方において、6061-T6合金で見受けられるように質別T6等の熱処理をしたものは、耐力から引張強さに至るまでの応力の増加率が小さく、外力が設計荷重を超えたとすると、致命的破壊に達するまでの余裕が少ないことを暗示する。したがって、設計の責任限界は耐力(又は弾性限)が対象であるとしても、予測しない超過荷重その他に対応し得る幅を大きくしておくことが望ましい。このような考え方から引張強さに対して、例えば、3とか4の安全率をとり、前述の耐力からの算定値と比較して、いずれか低い方の値を許容応力値として用いる。

以上が許容応力算定の基本的な考え方であり、引張許容応力が決まれば2.1で述べた要領で圧縮、せん断その他の各許容応力値も算定できる。ただし、既述のようにJIS規格の耐力σyと引張強さσB(各最小値)は各規準又は規格における基準値と一致しない場合がある。規準や規格作成の経緯によるものであろうが、例えば、引張強さの基準値は、建築関係の2規準では5/6又は0.8σBであり、JIS E 4050「鉄道車両用アルミニウム合金溶接継手-設計方法」では0.7σBとなっている。また、耐力の基準値もまれではあるがJIS規格の最小値ではないこともある。これらと関連して安全率も変わってくるので、基準値はなるべく統一して欲しいものである。

安全率の取り方と許容応力等は、座屈も含めて各規準又は規格に詳しく記されている。特にJIS B 8251「アルミニウム合金製天然ガス貯そうの構造」の解説では海外の主要規格も含めて膜応力(membrance stress)の算定基礎とそれらによる5083-O合金の許容応力の比較が、また、JIS B 8502「アルミニウム製貯槽の構造」では40〜200℃以下の許容引張応力をそれぞれ提示している。これらは「アルミニウム ハンドブック」29)にも要約されているので、ここでは、建物及び橋梁の設計におけるAA規準の安全率をTable 21に示す30)。ただし、同規準の旧版44)では、座屈の安全率は建物が1.95、橋梁では2.20であったのに対して、それぞれ1.20又は1.35と小さくなったことは注目に値する。

 

Table 21 安全率の例(米国アルミニウム協会規準)30)

020-1.gif

注.(1) Table 17のAA規準の値に対して用いる。ただし、引張強さは同表の90%を算定に使用する。

 

2.4.2 溶接による強度低下係数10),23)

 

質別T6、T4等の熱処理材並びに加工硬化材等は、溶接入熱によって熱影響を受けた部分が軟化する。この部分を強度低下域と呼び、Fig.17に点線で示すように溶接線から一定の範囲に強度低下を生じ*6、それ以外の部分は入熱の影響を受けない、と簡略化して取り扱う。すなわち、溶接部を持つ構造部材を強度低下域と母材からなる複合材とみなし、設計の便宜上から複合材と等価な均質材を想定することになる。

母材と強度低下域の応力-ひずみ線図をFig.18(a)のように表すと、図中のA、A'点がそれぞれの耐力となる。

 

1] 座屈を考慮する必要がない場合

 

引張材及び圧縮材でも母材部分が耐力Aに達したときに強度低下域では点A"の応力になっている。しかし、安全を考えて点A'の応力とすれば、Fig.18(b)のような縦継手の耐力σuは次式のようになる。

σuy(A-Aw)+σyw・Aw (12)

ここに、σy:母材の耐力

σyw:強度低下域の耐力

A:全断面積

Aw:強度低下域の占める断面積

等価応力σuwは式(12)を断面積Aで除して

σuwu/A

=[1-(Aw/A){1-(σywy)}]σy

1・σy (13)

 

*6 アルコア社のBrunsgraberらの実験によると、板厚3〜25mmにおいて熱影響部幅bhは2"(≒50mm、稀に3")であり、極度の安全を期待するときはbh=3"(≒75mm)、強度低下等価幅br=1.5"(≒37.5mm)であるが、通常の管理ではbh=2"(≒50mm)、br=1"(≒25mm)を採用できることが確認されており、各国の規準等ではbr=25mmとしている。

 

 

 

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