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日本では、運輸部門の二酸化炭素排出量は全体の約20%であり、このうちの約90%が自動車によるものである。二酸化炭素排出量の比率は産業部門、民生部門に次いで大きいが、他部門の排出源が定置型・集中型が主体であるのに比べ、運輸部門は基本的に移動型・分散型なので排出制御が難しい。また、利用者の支払能力の範囲内で考えた場合、自動車の技術革新による排出量削減はコストが非常にかかるため、大きな削減効果は期待しにくい状況になっているというのが実情である。

基本的に、二酸化炭素削減問題は現状の延長上だけでは難しい。単純に6%を減らせばよいというわけではなく、COP3の約束を守った後、さらに大幅に削減しなければならない。その実現のためには、環境対応技術のコスト削減も必要不可欠である。

2) 「エコ交通社会」の実現に向けて

○これからの運輸・交通に対するニーズ

運輸・交通における基本的なニーズは、すべての人・物の移動をできるだけ早く、安全かつ快適に(物の場合は安く、効率的に)実現することであるが、そのような前提の中で、循環・省資源型社会での運輸・交通には、交通弱者に配慮しつつ、環境負荷をできるだけ少なくすることが求められる。

前項で述べたように、大気汚染物質や二酸化炭素の排出量を削減するための技術開発は今後も続けていく必要はあるが、それだけではなく、運輸・交通の利用方法や運輸・交通を使ったビジネス形態を、循環・省資源型社会に適合するように変えていくという方法も積極的に取り入れていく必要がある。そのためには、個人や事業者が運輸・交通の利用を通して、循環・省資源型社会のなかで生活しているという意識を常に持つような価値観の形成・定着を図っていくことが必要となろう。

もともと二酸化炭素の削減を実現するためには、排出規制ではなく、身近なレベルでは日常の生活や仕事に関わる生活スタイルやビジネススタイルの変更、社会全体のレベルでは社会の仕組みや産業構造の変革をしていかなければならない。

運輸・交通においてもそれは同様であり、運輸・交通利用者の生活スタイル、あるいは関連事業者のビジネススタイルを循環・省資源型に変えていくこと、及び循環・省資源型の交通システムを構築していくこと等により、排出量削減を考えていく必要がある。

以上は、排出量削減という視点からの運輸・交通に対するニーズであるが、循環・省資源型の社会システム(社会の仕組み)の実現という視点からのニーズもある。例えば、静脈物流やリサイクル・リユース等に運輸・交通が積極的に関わることにより、循環・省資源型の社会システム構築に貢献するという方法も考えられる。

また、高齢社会への移行も環境を考える上で重要な問題である。交通弱者の多様なニーズを想定した場合、例えば徒歩、自転車、電動車椅子、公共交通の利用の増加や、交通弱者のためのインフラ整備、高齢者向けの自動車の増加等が環境に対してどのような影響を与えるかを見ていく必要がある。交通弱者の人口がかなりの比率を占める社会では、その移動手段を考慮したうえで環境への対応を考えていく必要があろう。

 

 

 

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