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差別をしてはいけないという規定により、交通事業者は、障害者がA地点からB地点へ単に移動できればいいと考えた一方で、障害者はアクセスが容易で移動が円滑に行えることを考えたため、その認識の差が問題になった。

交通事業者は、障害者は移動しないからアクセスは必要ないと主張した。一方、障害者は交通機関へアクセスできないから公共交通を利用することができないと主張した。こうした議論の末、交通事業者は、メインストリーム(一般の公共交通で対応する)ではなくバン等の特別車両で対応することが解決策であるという見解を示した。

こうした過程を経てようやく1990年にADAが制定された。これにより、新規に導入するバス、鉄道はアクセシブル化することが決められた。駅については、まず主要な25駅をキーステーションとして決定した。アメリカでは700の駅について、リモデル(アクセシビリティ対策のための改修)に取り組んでいる状況である。都市内のバスについてはアクセシブルなバスの整備率は75%である。アムトラックも新しいものはすべてアクセシブルにすることになっている。グレイハウンドなどの都市間バスについても、新規購入車両はすべてアクセシブル化することに決定した。

運輸省の中ではアクセスの問題は、長官を先頭に法律を越えて航空局なども含めたルールづくりに取り組んでいる。これは、乗り継ぎ、インターモーダル化(交通モード間の相互利用、統合)を意識していることによる。高齢者・障害者に対応するために、公共交通にかわる代替的な方法を採用することは、非常にコスト高になるため、公共交通を充実させていくことが得策だという認識である。

 

b. センシティビティ・プログラムの政策的位置付け

 

運輸省のADA規則は交通事業者に対してセンシティビティ・トレーニングの実施を求めている。交通事業者は従業員に総合的なトレーニング・プログラムを受けさせることを義務付けられている。多くの障害者は公共交通の利用に不慣れな場合が多く、それをサポートする乗務員のトレーニングの実施は差し迫った課題である。公共・民間の事業者を問わず、障害者に対して丁寧で親切な対応をすること、障害者の中でも様々な障害の種類があることを理解できるような教育を、それぞれの従事者に対して行わなければならない。

トレーニングには、通常、運転手へのアクセシビリティ装置の安全な操作方法のトレーニング、シートベルトを締めるなど、障害者が固定装置を使用する手助けのトレーニング等が含まれる。

米国ではプログラム支援の予算を求める特定の利益団体が、ADA以前から議会に対して非常に活発に活動し成果をあげている経緯がある。このようなロビー活動や交通事業者等の努力により、現在は、後述するCTAAやプロジェクト・アクションなどのNPOが、連邦の予算の補助を受けて積極的にプログラムの策定、普及に取り組んでいる。

連邦公共交通局による取り組みとしては、障害者を理解するための教材の提供が行われている。主として地方の小規模な交通事業者のために作成された(RTAP : Rural Transit Assistance Program=地方の公共交通支援プログラムによる)もので、「Trading Places」というタイトルが付されている(図3-1-1)。

 

 

 

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