こうした研修を実施する事により、利用者、添乗者双方にとっての事前の安心感、旅先での工夫が可能になる。それが利用者からのよい評価につながる。安心感が大切で、それを支える安全性が求められている。現状では、トラベルヘルパーの研修時間は不足していると認識しており、実習を含め50時間は必要と考えている。
利用者(旅行者)への対応は基本的にカスタムメイドであり、十分な内容の把握をしなければ不都合が生じる事もある。サービスを提供する際には利用者へのヒアリングを必ず行い、個人のニーズに合わせて旅をつくるようにしている。こうしたプロセスを経て、旅行で実際の添乗業務につなげていく。
身体障害者の場合、障害は1つの場合が多いが、高齢者だと複合的な障害のある人が多く対応が難しい。それでも旅行に行きたいという人が多い。こうした要望に対応するのがこの仕事の役割である。
海外などで旅行が長期化することが増え、ADL(日常生活に必要な活動)を支えるレベルの添乗者が必要になっている。同時に長時間一緒に過ごす中での容態変化への対応などが必要で、日本ではまだ定着していない旅行医学等の知識が必要になると考えられる。旅行医学は、主治医の診断書をもとに海外での病気に対応するシステムである。旅行医学専門のコンサルタントに医療知識の教育を依頼し、受講すると3年間有効の世界共通の認定カードが発行される。現在では、トラベルマスターの12名が取得している。交通事業者のマニュアルに記載するかどうかは別として、教育の中に医療知識を考慮しておく必要があると考えられる。
c. 今後の計画および課題
交通施設や旅行先のバリアフリー整備が課題になる。たとえば車いす使用者は、リフトのない駅やバスでは抱きかかえられて乗る事になる。車いす使用者の中にはそれに嫌悪感を示し、もう乗りたくないという気持ちになってしまう人もいる。また、旅行に出ると手間をかけてしまうからと、しり込みしてしまう状況がある。
現状ではハードの整備が十分でないことに加えて、事業主体や場所により意識(考え方)の違いが大きく、高齢者・障害者への対応も系統的ではなく、現場の個人の努力で乗り越えている部分が大きい。利用する側としては、ある目的地へ行くのにその交通機関しか利用できないので問題になる。交通従事者の対応でも、例えば車いすの人が外へ出るということはどういう思いで出かけているのか想起し、交通機関は「モノ」ではなく感情のある「人」を運んでいるという原点に立ちかえることが重要である。