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■事業の内容

運輸交通における地球環境問題は、CO2排出による地球温暖化問題が大きなウエイトを占めている。CO2等の温室効果ガス排出による地球温暖化の影響は、これまでの公害問題とは異なり、その影響が主として将来において生ずること、国レベル、地球レベルでの対策が必要である等の特異性がある。
 このような背景下において、地球温暖化問題の解決の道は、新しい環境テクノロジーの開発は当然のことであるが、それと同時に、社会一般の人々が地球温暖化防止のための行動を起こすことと、気候変動について科学的に不確実な部分をより少なくしていくための調査が必要である。
 本事業は、貨物におけるモーダルシフトや旅客における公共交通機関の活用など、従来の生活スタイル、経済スタイルから、地球環境を考えた新しいスタイルへシフトすることが必要であることを意識づけると同時に、具体的な行動への後押しのための調査研究を行った。また、気候変動現象解明の一助として、特にデータの空白域である北太平洋での大気と海洋間のCO2の観測調査を行い、前項と合わせて運輸交通における地球温暖化問題解決への道に寄与することを目的として、実施した。
(1) 先進的な環境対策活動調査
 [1] 調査項目
  a.中小運輸事業者・団体の地球環境問題に関する取り組み調査
   (a) 中小運輸事業者・団体へのアンケート調査
   イ.対  象  全国の貨物自動車運送業、倉庫業、貨物運送取扱業等の、中小事業者及び団体計1000件
   ロ.調査内容  地球環境対策の取り組みの実態把握
   ハ.回収数(回収率)  178件(19.1%)
   (b) ヒアリングの実施
   イ.アンケート調査と平行して、資料分析等から抽出した事業者及びアンケート調査によって把握された取り組み実施団体及び関連企業を対象として先進的環境対策のヒアリングを20件実施した。
  b.取り組みの実態と阻害要因などの問題点把握と先進事例の整理
    上記アンケート調査及びヒアリング調査より得られたデータより、先進的な環境対策の取り組み実態を浮き彫りにし、その阻害要因などの問題点把握及び先進事例の整理を行い指針を得た。
 [2] 報告書の作成
  a.規 格  A4判 130頁
  b.部 数  500部
  c.配布先  委員会委員、運輸省、地方運輸局、地方自治体、アンケート対象組合、全日本トラック協会等
(2) モーダルシフトモデル事業
 [1] 個別輸送モデル事業調査〔調査1〕
  a.調査項目
   (a) 荷主企業に対するアンケート調査
   イ.対  象  全国の製造業、卸売業、経済連・農協等農業団体 計3,000件
   ロ.調査内容  現状の輸送実態、モーダルシフト実施状況、輸送モード転換意向、転換への阻害要因等
   ハ.回収数(回収率)  304件(10.1%)
   (b) 既存事例の整理と境界領域の抽出
   イ.アンケート調査の分析とヒアリングの実施
     アンケート調査結果から、モーダルシフトについて「転換意向があり、具体的な例をあげている荷主」及び「既に転換をおこなっており、具体的な例をあげている荷主」の中から22社を選定して、ヒアリングを実施した。
   ロ.分析と整理
     上記アンケート分析及びヒアリング調査からモーダルシフト成功の要因と今後の課題といった視点から分析・整理を行った。
   ハ.境界領域の抽出
     上記調査結果のもと、「モーダルシフトを実施したいが問題点があるため具体化が難しい」というグレーゾーンを境界領域とし、地球環境対策としての視点からモーダルシフトの可能性を探るべく抽出、整理をした。
  b.試験輸送の実施
   (a) モデル事業の実施
     事前調査の結果により抽出された事例について、第1回委員会で諮った結果、適切な4事例をモデル事業として選定し、トラック輸送から鉄道コンテナ(2件)、海上コンテナ(1件)、フェリー(1件)への輸送モード切り替えを実施した。(各輸送片道10回)
   (b) 問題点の把握と整理
     試験輸送を行った結果に基づき、出荷状況、輸送ルート、リードタイム、出荷作業状況、輸送コスト、リードタイム等における問題点の把握及び成果を把握した。
 [2] モデル地域調査〔調査2〕
  a.調査内容
   (a) 問題点の整理とガイドラインの検討
     既存調査結果資料等により各モデル地域の物流の現状、社会基盤等を調査することにより、モーダルシフト促進のためのガイドライン案を仮説として設定した。
   (b) モデル地域における個別事情等現況についての調査
    イ.モデル地域における物流施設の現況
      港湾関係(施設、航路等)、鉄道貨物輸送基盤、高速道路網、トラックターミナル及び倉庫等の物流施設整備現況の調査を実施した。
    ロ.貨物流動の現況
      貨物流動について、輸送機関別貨物流動、品目別貨物流動、地域別貨物流動等について調査、分析をした。
   (c) モデル地域における課題、対応等の検討
     ガイドラインの検討に向けての、モーダルシフト推進に係る課題、問題点の抽出、整理を行った。
   (d) モデル地域における課題、対応等の検討
     北九州市においてはモーダルシフトの施策案として、施策の体系と個別施策、各個別施策ごとにその具体的内容と推進体制の考え方を設定し、松山市は現状の問題点の解消、地域としての魅力度向上という観点から物流機能拡充の在り方について検討を行い、新たな物流システム構築のための課題、対応方策を設定した。
 [3] 報告書の作成
  a.規 格  個別輸送モデル事業調査  A4 70ページ
         モデル地域調査      A4 69ページ
  b.部 数  個別輸送モデル事業調査  300部
         モデル地域調査      300部
  c.配布先  個別輸送モデル事業調査
          運輸省、地方運輸局、地方自治体、通運連盟、貨物鉄道会社、船舶関係団体等
         モデル地域調査
          運輸省、地方運輸局、港湾建設局、地方自治体、政令指定都市、貨物鉄道会社等
(3) バスの活用による都市交通の円滑化モデル事業
 [1] 調査項目
  a.現在までに実施された施策の検証、実施されていない都市の状況の調査を実施。
  b.運輸省チャネルを活用して、実験をしたいバス事業者を募り、新潟市を選定。
  c.パークアンドバスライドの効果、影響、問題、課題の分析。
  d.パークアンドバスライド実施上の留意点の整理を行った。
 [2] 実証実験の実施
   実証に先立ち、当該都市における交通状況の調査、パークアンドバスライド実施可能性検討と効果の推定、実験方法の具体的な検討を行った。
  a.新聞、ラジオなどを活用して実証実験実施の案内
  b.当該都市における交通状況の変化の調査を実施
  c.実験データの分析
  d.実験の効果、問題点等のとりまとめ
   (a) 道路混雑解消、環境負荷の低減、周辺地域でのバスの意義の認識の向上など効果のとりまとめ
   (b) 実施方法等の問題点のとりまとめ及び今後解決するべき課題についての検討
 [3] 報告書の作成
   報告書は、研究会と実証実験側の両方で報告書を作成した。
  a.規 格  研究会   A4判 162頁
         実証実験  A4判 181頁
  b.部 数  各350部
  c.配布先  運輸省、地方運輸局、地方自治体、日本バス協会、バス事業者等
(4) 一般商船による北太平洋の温室効果ガスの観測システムの構築
 [1] 調査項目
  a.観測システムの構築
    洋上大気及び海水中のCO2、塩分等の観測を自動制御で行い、全観測システムの運用状況、観測結果等の監視を一元的に行うことができる観測システムを構築した。
  b.観測の実施と解析
    北太平洋を航行する一般商船に同システムを設置し、観測を委託した。観測結果のとりまとめを行うとともに観測資料は当財団内にデータセットとして蓄積した。このデータは今後、温室効果ガス世界資料センターを通じて国内外の利用者へ提供する。
   (a) 篤志船の選定
     日本〜パナマ間を航行するコンテナ船「ありげーたーりばてい」を選定した。
   (b)観測の実施
     平成11年1月23日に東京港大井埠頭を出港後、東京→アメリカ西海岸において実施した。
   (c) 結果の解析
     大気・海水中の二酸化炭素濃度及び水温・塩分等のデータ解析を行った。
 [2] 報告書の作成
  a.規 格  A4判 38頁
  b.部 数  170部
  c.配布先  関係官庁、研究機関、大学、自治体等
(5) 鉄道車両内への自転車持ち込みに関するモデル事業調査
 [1] 調査項目
  a.新規に実施しようとするモデル輸送実施事業者2社(JR四国、富士急行)と既実施事業者2社(JR北海道、三岐鉄道)を選定し、施設面、安全面、運用面等、多岐に亘る問題点を把握した。
  b.モデル事業の具体的内容立案を行い、下記の内容によりモデル事業を実施し、利用者に対する広報として駅構内用及び中吊り用ポスターを掲載した。
   (a) JR北海道
   イ.函館本線(白石〜ニセコ)      6/13〜10/11 土休日
     車両改造なし 有料
   ロ.釧網本線(釧路〜川湯温泉)     7/4〜8/30 土休日及び一部夏休み期間
     車両改造あり 有料
   ハ.石北及び釧網本線(北見〜知床斜里) 6/27〜7/20 土休日
     車両改造あり 有料
   ニ.留萌及び函館本線(旭川〜増毛)   8/ 1〜8/30 土休日
     車両改造あり 有料
   ホ.函館本線(函館〜大沼公園)     7/19〜8/23 土休日
     車両改造あり 有料
   (b) JR四国
     予土線(窪川〜宇和島)   7/19〜12/27 毎日
   (c) 三岐鉄道
     三岐線(大谷知〜西藤原)  7/ 1〜10/31 休日及び夏休み期間
     車両改造なし 無料
   (d) 富士急行
     富士急行線(大月〜河口湖) 10/15〜1/29 平日
     車両改造あり 無料
  c.自転車持ち込み利用者、該当路線利用者、沿線住民等に問題点等について、アンケートを実施した。
   (a) アンケート配布数(回収率)
   イ.JR北海道  2,500件(35.6%)
   ロ.JR四国   2,000件(10.9%)
   ハ.三岐鉄道   1,600件(65.0%)
   ニ.富士急行   1,400件(25.7%)
  d.モデル事業の利用結果、アンケート調査等を踏まえ、問題点、今後の課題について検討及びとりまとめを行った。
 [2] 報告書の作成
  a.規 格  A4判 45頁
  b.部 数  250部
  c.配布先  運輸省、地方運輸局、日本民営鉄道協会、公営交通事業協会、鉄道事業者等
(6) 交通エコロジーに関するホームページの作成
 [1] 調査項目
  a.ホームページを作成するための環境構築
    PC−LANの構築を行い、プロバイダーとして日本テレコム(株)が運営するODN(エコノミー<2>)を選定した。セキュリティ対策は、ルータのセキュリティ機能に委ねた。
  b.ホームページの作成・更新
   ホームページの構成を検討し、当財団の紹介と広報、地球温暖化関連の事業並びに当財団関連の情報提供を行うホームページを作成した。また、成果報告は日本財団のライブラリーヘリンク、その他関連情報ともリンクを貼った。
   (a) URL   http//www.ecomo.or.jp
   (b) ページ数  60ページ(A4版換算)
■事業の成果

(1) 先進的な環境対策活動調査
 本調査の結果は、中小運送事業者に焦点を当て、これら事業者が地球環境対策に有効な取り組みを実践するための問題点をアンケート調査及びヒアリング調査を通じて洗い出し、各事業者が自ら地球環境対策に着手するための指針、事例等を発掘することができた。また単独事業者では、着手困難であるが、共同化によって有効となる事例として、配車計画段階において想定される取り組みの中から「ポケベルによる傭車システム」等を探り出せることができた。これは、今後のモデル事業として実施の検討に値する事例であり、実り多い事業となった。
(2) モーダルシフトモデル事業
 従来の基準からすれば、トラック輸送が適するとされてきたケースにおいても、地球環境対策という視点を加えた場合、鉄道や船舶輸送へのシフトが可能ないわゆる「境界領域」の輸送の存在を想定し、荷主企業へのアンケート調査及びヒアリング調査を通じて、その抽出を行い、同時にモーダルシフト転換意向のある荷主企業、モーダルシフトを既に実施した荷主企業双方の問題点及び課題等を整理した。合わせて、従来トラックで輸送していた貨物を鉄路、航路にて試験輸送を実施することにより、実輸送におけるモーダルシフトの問題点、効果、課題等を把握することができた。
 一方、モーダルシフトを、より広範に効果的に推進するために、上記の個別輸送ルートにおける荷主事業者の取り組み誘導施策と平行して、地域における物流改善のための総合的な取り組みを喚起、支援するべく、今回、モデル地域として「北九州市」及び「愛媛県松山市」を選定し、各地域の交通インフラ、貨物流動、貨物施設等の状況を把握、問題点の整理、対応策の調査を踏まえ、全国の各地域がモーダルシフト推進に取り組むための処方箋となるガイドラインを検討、とりまとめた。
(3) バスの活用による都市交通の円滑化モデル事業
 運輸部門における地球環境対策として、自家用車の利用から輸送効率の高い公共交通機関の活用は重要な課題である。この中でバスの活用施策としてパークアンドバスライドの実施が一つの有効な手段であると考えられる。

 本研究会では、パークアンドバスライドの事例から、実施による効果や周辺の影響、課題などを抽出し実施上の留意点などを整理した。また、新潟市において実証実験を実施し、問題点等を明らかにすることにより、以後の本格施策に向けての課題を整理することができた。また、同様の問題を抱える各都市における施策実施における留意点などを提供することができた。
(4) 一般商船による北太平洋の温室効果ガスの観測システムの構築
  a.観測システムの構築
    船舶関係者の協力に加えて、「ありげーたーりばてい」乗組員の協力により、従来は海洋観測船でしか実施できなかった温室効果ガスの洋上観測について、一般商船でも高精度のデータを取得することが可能なシステムの構築を実現することができ、次年度以降もより充実したデータの取得が可能となった。
  b.観測の実施と解析
    観測の空白海域である北太平洋の米国西岸までの海域で、一般商船を利用して洋上大気及び海水中のCO2、塩分などの観測が実施できた。今後は、さらに季節変動や経年変化を明らかにするために季節ごとの調査、中期的な経年調査を実施する予定としており、目的とする地球環境に関する科学的知見の進展に期待できる。
(5) 鉄道車両内への自転車持ち込みに関するモデル事業調査
 本事業のモデル事業者として、新たにモデル事業として実施するJR四国、富士急行に加え、一部既実施事業者であるJR北海道、三岐鉄道もモデル事業に参加することで、これまでのノウハウの提供を受けることにより、新たな事業者も実施の参考となった。
 また各事業者において実施した自転車持ち込み利用者等を対象としたアンケート調査により、運賃・料金面、安全面、運用面等のソフト面でのより利用者ニーズに即したサービスの在り方、問題点、改善点等を探り出せたのはもとより、駅構造、周辺道路等のハード面の現況、問題点をも整理できたことにより、今後の検討課題を抽出することもできた。
(6) 交通エコロジーに関するホームページの作成
 交通エコモ財団のホームページを作成し、運輸交通にかかわる関係者、環境問題に関心を持つ関係者等に、当財団の活動を紹介し、地球温暖化防止に関する活動を紹介できたことは、普及啓発に寄与できたものと思われる。





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