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■事業の内容

海洋環境に大きな影響を与える大規模な流出油事故は、世界各地で跡を絶つことなく発生している。
 海外では平成元年のタンカー「エクソン・バルディーズ」号事故、平成5年タンカー「ブレイア」号事故、平成8年タンカー「シー・エンプレス」号事故、また、我が国周辺海域では、平成2年の貨物船「マリタイム・ガーデニア」号事故、平成5年タンカー「泰光丸」事故、さらに、未だ記憶に新しい平成9年のタンカー「ナホトカ」号事故、及び同年「ダイヤモンド・グレース」号事故と枚挙にいとまがないほどである。
 これらの事故は世界的に地球環境問題の意識の高まりの中で、特に海洋環境の保全について認識を新たにさせるものであった。
 大規模な流出油事故においては、あらゆる油防除資機材が使用され防除作業が行われているが、事故の被害を最小化し、海洋環境に与える影響を少なくするためには、その事故の状況に応じた油防除資機材を投入する必要がある。しかし、我が国においては油防除資機材の性能、取扱い等その油防除資機材が有する特性に関する調査研究は少なく、油防除資機材が有する特性を十分に把握しているとは言えない状況にある。
 このため、油防除資機材の特性及び最適使用方法等を調査研究することにより、海洋環境の保全及び海上災害の防止に寄与することを目的として、本事業を実施した。
(1) 米国・カナダの油防除資機材の現状調査
米国・カナダにおける油防除資機材の性能基準、試験方法及び開発状況等について調査した。
(2) 油防除資機材の評価手法・評価基準の検討
 [1] 物理的油防除資機材
  a.油回収装置
    油回収装置について、油回収効率等の数値的な評価のための試験方法を策定するとともに、その装置に有する操作性、機動性等の作業面からみた追加的性能評価基準を検討した。
  b.油吸着材
    油吸着材について、高粘度油に対する吸油性能等を求めるための試験方法を検討し策定した。
 [2] 化学的油防除資機材
  a.航空機散布用油処理剤の性能試験法
    航空機散布用油処理剤の性能評価のための暫定試験法として考案しているMDPC法について、所要の調査を実施し、航空機散布用油処理剤の性能試験法として確立した。
(3) 既存の油防除資機材の性能の再評価
 [1] 物理的油油防除資機材
  a.油回収装置
    油回収装置3機種について、粘度の異なる3種類の潤滑油により平水中と波浪中で油回収効率、時間当たりの油回収量及び時間当たりの回収油水量を調査した。
  b.油吸着材
    近年の流出事故の状況に鑑み高粘度油に対する吸油性能を把握するため、米国・カナダの海外調査で入手した試験方法を参考とし、独自の試験方法により形状及び材質の異なる5タイプ19種類の油吸着材について、吸油性能を調査した。また、併せて、真水及び天然海水における吸水性能についても調査した。
 [2] 化学的油防除資機材
  a.粉末油ゲル化剤
    粉末油ゲル化剤について、前年度の調査に引き続き、新たに考案した試験方法により高粘度油に対するのゲル化率の調査を実施した。
(4) 薬剤使用法の検討
航空機散布用油処理剤について、前年度の調査に引き続き、両親媒性溶剤と界面活性剤の配合比について調査し、併せて性能調査や有害性調査を実施して実用化を推進した。
■事業の成果

(1) 米国・カナダの油防除資機材の現状調査
昨年度の北欧に引き続き、過去に大規模な油流出事故を経験している米国と、国内に多数の油田を保有するカナダとを訪問し、油防除資機材の評価基準や性能試験法等について調査するとともに、関係者との意見交換を実施した。海外調査の成果の概略は次のとおりである。
 [1] 物理的油油防除資機材関係
   オイルフェンス、油吸着材、油回収装置等の物理的油防除資機材について、米国及びカナダの技術基準及び型式承認制度並びに性能試験方法等の調査をしたところ、両国とも技術基準や型式承認制度というものは採られていなかった。物理的防除資機材に関する各機関の回答は、次のとおりである。
  a.米国環境保護庁(環境対応チーム・センター)
    油吸着材については、環境に残らないものであれば何を使ってもよいというのが基本的な考えである。ただし、油を沈めるものについては使用してはならず、また、回収の必要のあるものは回収しなければならない。
  b.米国沿岸警備隊(NSFCC)
    油回収機に要求される条件というものはない。ワールド・カタログに記載された値の20パーセントを採用し、性能によって各油回収機を格付けしている。
  c.油・有害物質環境影響大型テスト・タンク(ohmsett)
   ブームとスキマーについては、ASTMの方法に従って試験を行っているが、油吸着材については、試験の都度、独自の試験法を考案している。
  d.Science Applications International Corporation Canada (SAIC Canada)
    油吸着材の試験については、以前は、カナダ連邦環境省とカナダ一般標準評議会が合同で策定した試験方法を用いていたが、現在、この試験法は使用されておらず、また、ASTMの試験法についても、改正作業中であった。
 [2] 化学的油油防除資機材関係
  a.分散剤の技術基準及び型式承認制度
   (a) 米国
     分散剤は、国家緊急時計画のリストに記載されたものだけが、流出油防除活動の中で使用することが認められており、同緊急時計画に定められた試験に合格したものが、このリストに記載されることになっている。この制度により、現在、次の4種類の分散剤が承認されている。
   (b) カナダ
     カナダにおける分散剤の使用については、米国と同様に、国家緊急時計画のリストに記載されることが必要であるが、それに加え、実際に使用する際にも、使用することについての許可を得ることが必要とされている。この制度により、現在、2種類の分散剤が承認されている。
  b.バイオレメディエーション手法に係るプロトコルの現状
    流出油の防除におけるバイオレメディエーションの手法は、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization) において、2000年以後に標準化しようとする動きがあり、この手法の先進国である米国のNETAC(National Environmental Technology Applications Center)が1993年に作成したEvaluation Methods Manual : Oil Spill Response Bioremediation Agentsの現状について調査したところ、次のとおりであった。
   (a) 米国環境保護庁 (環境対応チーム・センター)
    このマニュアルは、現在、ガイドラインとして扱われており、規則としての取り扱いはなされていない。内容についても、1993年から更新されていなかった。
   (b) カナダ連邦環境省(環境技術センター)
     カナダは独自のプロトコルを持っており、これは、ガイドラインとしてのものであるが、規則では、「適正なガイドラインに従って使用すること」とされているので、実質的に規則のようなものであった。カナダはこのプロトコルに自信を持っており、現在、NETACが、このプロトコルの内容を取り入れようとしているとのことであった。
(2) 油防除資機材の評価手法・評価基準の検討
 [1] 物理的油油防除資機材
  a.油回収装置
    油回収装置について、油回収効率等の数値的な評価のための試験方法を策定するとともに、その装置が有する操作性、機動性等についても性能評価基準を検討した。
  b.油吸着材
    油吸着材について、高粘度油に対する吸油性能等を求めるための試験方法を策定した。

 [2] 航空機散布用油処理剤の性能試験法

   航空機散布用油処理剤の性能評価のための暫定試験法として考案しているMDPC法について、調査の必要があると考えられる振とう時間、静置時間及び油分抽出試薬について試験を実施し、試験法としての諸元を決定して、試験法を確立した。今回行った調査の結果は、次のとおりである。
  a.振とう時間
    予め混合による試験の結果では、分散率は、振とう時間の増加に伴ってほぼ一定の割合で増加し、振とう時間が30分を経過するあたりから、大きな変化が認められなくなっている。このため、振とう時間を30分とすることが、分散剤の性能を最も効果的に発揮させる振とうであると考えられ、振とう時間を30分とすることとした。
  b.静置時間
    予め混合による試験の結果では、分散率は、静置時間の増加に伴ってほぼ一定の割合で減少し、静置時間が20分から25分を経過するあたりからは変化が少なく、ほぼ一定の値となっている。また、静置時間が10分を経過するあたりからは、分散率の変化の割合がほぼ一定となっており、乳化層は、粒径の大きな粒子が浮上して、ほぼ一定した状態の粒子で構成される均一な分散状態になっていると考えられる。このため、静置時間を10分とすることが、乳化層が適切な分散状態にあるときをとらえることができると考えられ、静置時間を10分とすることとした。
  c.油分抽出試薬
    油分抽出試薬として、舶査第52号による試験法で用いられている四塩化炭素は、既に製造が禁止されており、今後継続して使用できる見込みがないことから、海外の試験法で用いられているクロロホルムや塩化メチレンについて吸光度の特性を調査した。この結果、いずれの試薬も吸光度の特性はほぼ同じであり、いずれも可視光領域の波長での吸光度の測定が可能であることから、試薬自体の有害性に着目して、より低害である塩化メチレンを油分抽出試薬に採用することとした。
(3) 既存の油防除資機材の性能の再評価
 [1] 物理的油油防除資機材
  a.油回収装置
    回収原理の異なる油回収装置3機種について、近年の油流出事故に鑑み25℃において15,000cSt、2,200cSt、95cStの3種類の潤滑油を試験油として用い、平水中と波浪中での油回収試験を実施した。試験により油回収効率、時間当たりの油回収量及び時間当たりの回収油水量を求め、各油回収装置の粘度及び水面状況に対する特性を得ることができた。また、回収作業の準備、操作性の難易等についても、試験を通し十分に把握することができた。
  b.油吸着材
    高粘度油に対する吸油性能を把握するため、海外調査で入手した試験方法を参考とし、C重油を試験油とし独自の試験方法を策定し、形状及び材質の異なる5タイプ19種類の油吸着材について、吸油性能を調査した。また、併せて、真水及び天然海水における吸水性能についても調査した。試験の結果、供試体の品質及び形状により測定値にバラツキが生じることが判明したため、バラツキの許容範囲を定めるとともに、許容範囲を越えた場合、測定をやり直すこととした。また、吸油試験時、油中に没するものも認められ、使用に際しての注意が必要なことも判明した。
 [2] 化学的油防除資機材
  a.粉末油ゲル化剤
    粉末油ゲル化剤について、前年度の調査に引き続き、新たに考案した試験方法によって高粘度油に対するゲル化率の調査を実施した。調査の結果、今回考案した試験方法では、油が網目に付着して多少の油がふるいに残ることから、ゲル化していない油として抽出される油分の量が実際の値より低くなり、結果としてゲル化率が高い値を示すこととなるが、この試験方法によれば、高粘度油に対するゲル化率の計測が可能であることが判明した。
    なお、本年度実施した試験の粘度範囲では、粉末油ゲル化剤は、500cSt以下の粘度の油には有効であるが、3,000cSt以上の油では、油面の一部をゲル化するだけで全量をゲル化しない結果となった。
(4) 薬剤使用法の検討
 航空機散布用処理剤について、前年度の調査に引き続き、両親媒性溶剤と界面活性剤の配合比について調査し、併せて性能調査や有害性調査を実施して実用化を推進した。調査の結果は、次のとおりである。
 [1] 配合比及び基本性能の調査
   昨年度までに試作した航空機散布用油処理剤について、両親媒性溶剤の含有量を5パーセント程度変化させて分散率を調査したが、分散率に大きな違いは認められなかった。このため、昨年度までに試作したものにより実用化を図ることとした。
   なお、予め混合による試験の結果では、試作した各供試体の分散率に大きな差は認められず、いずれも35パーセント前後の分散率が得られている。また、別々添加による試験の結果では、S−7の分散率が最も高く、23パーセント程度の値が得られている。
 [2] その他の性能調査
  a.低散布率での性能
    供試体について、散布率を低減させた場合の分散性能について調査したところ、予め混合による試験では、散布率を4分の1に低下させると、分散率が3分の1から4分の1程度にまで低下する結果となった。
  b.希釈した場合の性能
    供試体について、分散剤を海水で希釈させた場合の分散性能について調査したところ、予め混合による試験では、分散剤を50パーセントに希釈した場合では、分散率が約2分の1近くまで低下する結果となった。
  c.高粘度油に対する性能
    供試体の高粘度油に対する分散性能を調査したところ、予め混合による15,000cSt及び30,000cStの粘度の試験油に対する試験では、いずれも分散率は、数パーセントに満たない結果となった。
 [3] 有害性調査
   試作した供試体について、舶査第52号による対生物毒性試験により有害性を調査したところ、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行規則(昭和46年運輸省令第38号)に定める基準を満足する結果が得られた。また、試作品の有害性を、ヒメダカを用いた急性毒性試験により、洗濯用洗剤等の無作為に抽出した家庭用品の有害性と比較したところ、調査に用いたものの中では、試作品の有害性が最も低い結果となった。





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