日本財団 図書館


■事業の内容

わが国中小造船業がカバードドックを導入する際の基本計画の概要書を作成するため日本の造船所の船台・ドックの大半を手掛けている日産建設株式会社と共同でオランダ等カバードドックを持つ造船所の調査等を行い、わが国中小造船業に最も適したカバードドックを導入する際の計画概要書を作成し報告書にまとめ配布した。
(1) 実態調査
(調査期間) 平成10年6月7日〜17日
(調 査 員) 日産建設株式会社 土木技術部長 松本  喬氏
       事務局      業務部長代理 北村 和芳氏
(調査造船所)オランダ
YVCイッシェルヴェルフB.V
同社は修繕船用工場と新造船用工場が別会社組織になっており両社ともYVCHOLDING社に属している。以下、主な調査結果は下記の通りである。
 [1] 年間売上高は200万ギルダー(日本円にして約140億円)で内訳は新造船会社105億円、修繕船会社35億円となっている。
 [2] 作業員は新造船会社約450名、修繕船会社150名である。
 [3] 新造船の工事実績はコンテナ、自動車運搬船、ステンレス製ケミカルタンカー、冷凍運搬船、遠洋漁船、LPG船等多岐にわたっている。
 [4] カバードドックの調査
  ・セミドライドックに移動屋根式のカバーを架けている。
  ・セミドライドックの寸法は幅24m×長140m×深5mで5,000DWT級の船舶が建造できる。また、カバードの寸法は幅30m×長150m×高16mである。
  ・カバードの屋根は6分割され移動する構造になっている。
  ・ブロックの搭載はカバードを移動し開けて右舷側の水平引込みクレーン(50t吊り)を使用して行う。ブロックの重量は28t/個である。
  ・左舷側のカバーの柱はH型鋼2本をチャンネルとアングルでトラスにして基礎部をV字にしてピン構造としている。右舷側はH型鋼2本を約1.2m幅トラスとして基礎に埋込み固定構造としている。
  ・壁と屋根は折板、屋根の裏側には換気扇と照明が所々に取付けられている。
  ・渠底にはスロープがつきコンクリートの床版の下にはコンクリートパイルL=20mが打ち込まれている。また、浮き上がり防止のアンカーも打込んであった。
  ・完成した船舶は台車に載せられウインチで制御しながら進水させる。進水時は、渠口部から川側へ台車受けレールを設置している。
ロイヤルシュルデ
同社は国営造船所で新造船会社と修繕会社に分かれている。新造船会社は、政府の艦艇を数多く建造している。手持工事は2001年まで確保している。
 以下、主な調査結果は下記の通りである。
 [1] ロイヤルシュルデの概要
 4つのブロックにより構成されている。
  Scheld Shipbuilding
  Scheld Repairyard
  Scheld Gears B.V.
  Royal Scheld (Koniklijke Scheld Groep B.V.)
 [2] カバードドックの調査
  ・ドックの寸法は幅22m×長200m×深10mで6,000DWT級の船舶が1.5隻建造できる。
  ・カバードの寸法は幅30m×長200m×高25mでドックとの余裕が少ない。
  ・カバーの柱は鉄骨、壁は折板、天井には折板で中央部にアクリル板と思われる明かり取りがありライトも天井にまばらに配置されている。
  ・壁にはヒーターが7〜8mm間隔に設置されている。
  ・室内には50t吊り天井クレーン2基が設置されている。
  ・渠壁は鋼矢板、頭部はコンクリートコーピングになっている。
  ・ドッグ内には中間ゲートが用意されている。
  ・ドック渠底の渠口部側に縦5.0m×横5.0m×深1.0mの排水ポンプ用ピットがある。
ウィルトン
 同社は1823年創業のオランダでも古い造船所のひとつであるが、現在YVCイッシェルヴェルフB.V.に買収されかかっている。以下、主な調査結果は下記の通りである。
 [1] ウィルトンの概要
   設備規模はフローティングドック4基(9,000〜90,000DWT船舶対象)とグレイビングドック3基(40,000〜160,000DWT船舶対象)の合計7基を保有している。
   このうち40,000DWT船舶対象のグレイビングドックがカバードドックとなっている。建造船舶の船種は艦艇、浚渫船、ヨット、漁船、海上備蓄設備等
 [2] カバードドックの調査
  ・ドックの寸法は幅 28.3m×長210.83m×深9.9m。
  ・カバードの寸法は幅48.5m×長215.83m×高28.5m
  ・ドック内の設備として50t天井クレーン2基と中間ゲート1基がある。
  ・カバード内の右舷側の柱はH−300×500×28mm2本を1m間隔にして型鋼でトラス形式にしている。柱の基礎部はY字形にしぼっている。左舷側は右舷側の柱と同じトラスの柱の外側に基礎部で4m離して軒下部0mの斜材を柱と同じ6m間隔でいれている。
  ・壁は折板、天井は透明アクリル板を横断方向に小さい山形にして室内の照明と強度を役立てている。
  ・ゲートは水平方向の片開き方式で沖のキャプスタンを設置して開閉する形式になっている。ゲート上の扉は鋼製で左舷側に引き込む形式となっている。壁の上下に換気孔を設けている。ドックの排水時間はポンプ3台で2.5時間
  ・カバードドックの建設は20年前で、工事費用は1,000万ドル(現在のレートでは約14億円)
フリシアンシップヤード ヴェルゲレゲン
 同社は1600年代に創立されていたとの同社資料に記載されている。ハーリンゲンと言う都市にあり同社はカバードドックのみならず、ドイツ製のシンクロリフトも備えた近代的な最新鋭の造船所であった。
 以下、主な調査結果は下記の通りである。
[1] ヴェルゲレゲンの概要
  ・ハーリンゲンの運河に面して造船所はある。
  ・現在の最新鋭の設備が完成したのは1996年である。
  ・設備内容
  (カバードビルディングドック)
   ドック寸法  幅30m×長145m
   カバード寸法 幅45m×長150m
   天井クレーン 100t吊り×2基
  (シップリフト)
   幅20m×長120m リフティング   キャパシティ 750t
   修繕バース  幅60m×長185m
  (フローディングドック)
   幅16m×長45m    リフティングキャパシティ    750t
   幅16m×長85m    リフティングキャパシティ  1,750t
   幅21.5m×長115m リフティングキャパシティ  4,500t
   幅25.5m×長177m リフティングキャパシティ 10,800t
 [2] カバードドックの調査
  ・新造船対象船舶は5,000DWT
  ・ドックの深さは約10m、カバーの軒高は約30m
  ・壁と柱はウィルトン造船所と同じく横断方向において、片側が垂直で反対側は垂直の柱に斜めの壁になっている。
  ・天井もウィルトン造船所と同じく小さいアクリル板の三角屋根にして明かり取りとしている。
  ・天井クレーンのガーターが何故か渠口部より海側に15m延長している。
  ・カバード内の左舷側陸上部は3階建になっており設計室、監督員詰め所、打合わせ室等になっている。
  ・修繕設備としてシンクロリフトも設置されており、その延長上に上屋工場が3棟並んでおり、一番高い棟はサンドブラスト工場になっており、上屋の規模は幅25m×長100m×高30mである。
(調査期間)  平成10年10月20日〜22日
(調 査 員)  日産建設株式会社 土木技術部長 松本  喬
        事務局      業務部長代理 北村 和芳
(調査場所)  長崎
長崎地区の造船所(渡辺造船所、長栄造船、三菱長崎)の工場レイアウト調査を実施し、カバードドックの基本計画作成の参考とした。
(調査研究項目)
 [1] カバードドックの規模並びに工場レイアウトについて調査研究した。
 [2] 造船所周辺の気象、海象等の環境条件について調査した。
 [3] カバードドックの設計に必要な事項(材質、強度等)について調査した。
 [4] カバードドックの建設費並びにランニングコスト等について調査研究した。
(2) カバードドックの計画概要書作成
わが国中小造船所にカバードドックを導入する際の基本計画の概要を実態調査をもとに日産建設(株)において委託作成し報告書として取りまとめ配布した。
(3) 報告書作成
 [1] 規 格  A4判オフセット印刷 約70頁
 [2] 部 数  100部
(4) 配布先
委員等     30部(委員27部、日産建設(株)3部)
海外事務所等  12部(シンガポール、パリ、ニューヨーク、オランダ富士貿易各3部)
運輸省      5部(造船課2部、舶用工業課2部、技術課1部)
事務局在庫   53部
■事業の成果

わが国中小造船業は、昭和30年代から40年代に建設された造船設備(船台・ドック)を使用し、その中で設備の機械化等を図りコストダウン等、あらゆる経営努力を重ね地域経済の発展に寄与してきた。しかしながら、わが国中小造船業が、韓国・中国並びに第3造船勢力に負けず21世紀に生き残るためには、造船設備の高度化を図り作業環境を整備することが必要不可欠である。

 ついては、2カ年計画で作業環境整備のための調査研究を実施することとし、昨年度はシンクロリフト設備について調査研究し導入のマニュアルを作成した。最終年度である本年度は、環境問題を念頭にいれカバードドックについて調査研究をした。今回調査したオランダの各造船所は冬期の寒さ対策のためにカバードドックにしていたが、当会会員造船所とほぼ同規模の船台能力を保有しており、わが国に導入するカバードドックを設計するのに非常に参考になった。このカバードドックを、わが国に導入すれば高温多湿な夏期の対策並びに最近、叫ばれている環境保全対策等に大きな効果が発揮されるものと期待される。

 今回、カバードドックの基本計画の概要書を作成するにあたっては、わが国造船業の船台・ドックの大半を手掛けている日産建設株式会社に委託し共同で研究した。近い将来、わが国にカバードドックを導入する際、本カバードドックの計画概要書が、大いに寄与するものと確信する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION