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■事業の内容

今日、船舶建造現場に於ける設計・加工・組立工程は、造船組立工作技術や自動制御技術等の進歩により自動化が進み、品質、能率等は大幅に改善されてきているが、建造ドックでのブロック搭載工程は、その多くが未だに手作業により行われている。中でも船体の溶接作業の内、船底、前後部の曲がり外板部については、溶接姿勢が上向き、横向き、縦向きに複合的に組み合わさっていることから、これまで溶接の自動化は不可能とされてきた。
本事業はこれまで船体の内外より足場を介して熟練溶接士が行っている現状の手溶接に代わり、船体の外側から溶接部の複合変化に対応できる溶接方法と溶接装置全体が溶接部に自動追従できる適応制御を確立し、従来にはない、地上組立てブロックにも広く適用できる「より安全、高品質、高能率な溶接を行う搭載工程における船底外板の自動溶接システム」を自動溶接ロボットと自動移送車の2つに分類し、それぞれ溶接方法と追従装置の追従方法について検討、確立し、モックアップ船体(本船の数分の1モデル)で確認できるプロトタイプ機の開発を実施した。
(1) 船底外板自動溶接システムの開発
 [1] 船底外板溶接方法の開発
  上向姿勢〜立向姿勢に変化する溶接部を船体の外側から片面溶接 (片側より全板厚を溶接する方法) できる溶接方法の選択と溶接条件及び溶接条件適応制御 (溶接条件追従知能) の開発を行った。
  a.溶接姿勢に対する最適溶接方法の選択
    溶着金属が溶落する現象を回避する溶接法としてガスメタルアーク(CO2)溶接法について検討を行い、当該溶接法を使って、上向きMAG自動溶接、上向水平多層盛自動溶接、上向水平2電極自動溶接について現状の船内側からのCO2半自動溶接法との溶接能率、自動化度等について検討を行った。
  b.溶接部の形状(開先、仮付方法)選択
    a.で選択した溶接方法に対して安定した溶接、溶接断面積最小化を図るために、溶接トーチの細径化による開先ギャップの最小化、開先角度の低減化の検討を行った。また、当該溶接施工前にロンジ材を溶接することにより、ロンジ材がストロングバックの役目を果たすような仮付け方法の検討を行った。
  c.溶接材料、裏当て材料の選択
    選択した溶接方法に対してシールドガス、溶接ワイヤー、裏当て材料等について最適な材料選択を行った。
  d.溶接部倣い方法の選択
    今回、開先部倣い用センサーに要求される開先中央位置検出機能、開先ギャップの形状計測機能、溶接線方向検出機能を考慮しながら、機械式倣い、光学式倣い、アークセンサー倣いの3種類について検討・選定を行った。
  e.溶接部状況検出方法の選択
    レーザー変位センサーの揺動方式による開先の形状測定、溶接機と溶接線のズレ量、ズレ角の測定方法について検討を行った。
  f.溶接部姿勢変化検出方法の選択
    角度検出センサーについてピボットサスペンション式傾斜角センサー、サーボ式傾斜角センサー、ファイバ・オプティック・ジャイロの3種類、データ検出の処理方法、検出センサーの制御方法について検討を行った。
  g.姿勢別基本溶接条件の選択
    各溶接姿勢、板厚、ギャップ範囲について溶接実験を行い、この結果を基に最適条件を収集し、溶接条件適応制御の基本条件とした。
  h.溶接条件適応制御方法の選択
    リアルタイムに検出されたデータを受信、演算し、最適溶接条件を出力して溶接電流・電圧、溶接速度を制御する制御方法の検討を行った。
  i.プロトタイプ溶接装置の設計、製作
    これまでに検討、選定した方法をもとに溶接装置、溶接条件適応制御装置の設計、製作を行った。
 [2] 船底外板自走知能移動車の開発
   自動溶接装置を搭載し、凹凸の渠底を走行しながら溶接部に溶接装置、溶接トーチを精度よく自動追従させる自走知能移動車の開発を行った。
  a.移動車の方式選択
移動車の駆動方式、溶接装置の支持方法、搭載物の重量設定、走行路の状況、走行速度、形状について検討を行った。
  b.自動水平保持渠底走行方式の選定
    渠底に傾斜、凹凸、電線、残材等の障害物があっても溶接装置に影響を与えずに水平保持走行ができることを念頭に、凹凸部の走行方法、溶接機の保持方法に分けてそれぞれ検討を行った。
  c.溶接線自動追従条件検出方式の選定
    溶接線に対して移動車を自動的に追従走行させるため、溶接線方向の検出方法、操舵機構、操舵制御方法の検討を行った。
  d.自走適応制御(走行知能)方式の選定
    渠底表面・船底外板面姿勢、溶接線倣い、溶接速度等の検出条件から安定した姿勢・走行速度を出力するため、凹凸路面及び蛇行走行での走行速度制御、ビルジ外板部での走行速度制御、溶接機の姿勢制御について検討を行った。
  e.溶接装置との連動制御及び自動倣いアームの選定
    アームを使った溶接機の「左右位置」と「溶接線方向」の姿勢制御機構とその制御方法について検討を行った。
  f.プロトタイプ自走装置の設計、製作
    これまでに検討した形状、方式で自走装置を設計し、船体の数分の1程度のモックアップ船体で実験できるプロトタイプ自走装置の開発を行った。
 [3] 開発装置の運転実験、まとめ
   船体の数分の1程度のモックアップ船体を製作し、今回製作した自動溶接装置、自走知能移動車の動作確認実験を行い、上向水平姿勢における溶接条件設定までの運転実験を行った。また、同実験結果から不具合部、改良必要部及び実用機設計のため、諸条件のまとめを行い、実機のイメージ図作成を行った。
■事業の成果

本研究開発は2ケ年計画で実施しているものであり、本年度は1年目として当該システムのハード部分である自動溶接ロボットと自動移送車の製作を行った。自動溶接ロボットでは自動化が不可能とされていた上向き姿勢溶接部に対して溶接開先内に特殊溶接トーチを挿入し、自重により溶落する溶融金属を溶接トーチと共に移動する摺動銅板で受け止めて自動溶接を行う溶接方法を開発すると共に、溶接中、変化する溶接開先、溶接姿勢、溶接線のズレに対して溶接装置自らがズレを検出・演算し、自動位置修正、自動溶接条件設定等の適応制御(溶接人工知能)を考案し、試作して単体としての性能確認を行い、良好な結果を得た。
 また、渠底の凹凸面をレールレスで走行し、且つ自らが走行のズレを検出・演算し、搭載した溶接装置を指令速度で溶接線に自動追従させる移動車と追従適応制御(走行人工知能)について考案、試作して単体としての性能確認を行い、良好な結果を得た。
 更にこれら個々の要素機器をシステムとして組み合わせ、モックアップ船体の試験材(水平上向姿勢)で総合的な性能評価を行い、当初の要求性能を確認し、従来からの上向溶接の課題であった高能率自動溶接を実現した。
 同システムは他分野への応用も期待できるものであり、例えば両面溶接を行っている厚板部材に対して母材下側を走行することにより、部材の危険な反転無しに両面溶接ができる可能性が現実味を帯びてきた。また、自走知能移動車は自立走行が可能な多機能アームを有した移動車であることから、アーム先端に付いている溶接機の代わりに塗装スプレーガンや超音波探傷機を装着することにより、塗装ロボット、探傷ロボットとしての使い勝手も期待できるところである。
 しかし、今回の性能試験では設計段階で予測できなかった不具合等も幾つか確認されており、次年度の課題として改良に取り組むこととした。





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