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■事業の内容

窒素酸化物(NOx)の全人口排出量は年間65百万トンと推定されているが、船舶からの排出量はこのうちの約20%にも達すると考えられるため、船舶からの排ガス浄化システムの開発は急務である。このような背景のもと船舶からのNOxについては、モントリオール議定書に基づき、IMO(国際海事機関)において2000年までに現状の70%以下に排出量を削減することが合意されている。
 燃焼機関からの排ガス浄化法として触媒を用いた後処理が有効であるところから、これまでに種々の接触還元除去法が実用化されている。船舶に関してもその有効性が検証されているが、排ガス温度が低い出入港時には脱硝用触媒が有効に働かない等の問題点がある。
 本事業は、この問題点を解決する方法として、「吸着剤−選択還元触媒」の複合化による新しい触媒システムの調査研究を行い、小型内航船用ディーゼルエンジンの脱硝システムの性能改善を図り、我が国造船技術及び造船関連技術の向上に資することを目的として実施した。
(1) 触媒の調製・評価
文献事例の検討結果から銅イオン交換ゼオライト、バリウム−銅複合酸化物、マンガン−ジルコニア複合酸化物のNOx吸着量が多いことが明らかとなったため、これらの吸着剤の調製事例をデータベースにより調査し、銅イオン交換ゼオライト2種、バリウム−銅複合酸化物1種、マンガン−ジルコニア複合酸化物2種のそれぞれの吸着剤を調製して、水酸化物沈澱の熟成時間、温度、雰囲気の異なる試料を調製し、それらの機能評価を行った。
(2) 触媒活性評価装置の製作
昨年度までの評価結果に基づいて、以下のような仕様の装置を設計・製作し吸着剤の性能を評価した。模擬排ガスとして100〜10,000ppmのNOxを含むガスを流すことが可能な常圧固定床流通式反応装置とした。そのために反応ガスは、それぞれ流量をサーマルマスフローコントローラで制御した。本反応では、供給ガスの中のそれぞれの反応基質濃度がいずれも極めて低い。そこでより正確な流量制御を行うため、ガスの供給にはO2 以外、Heによる希釈ボンベを使用した。吸着剤をシリカウールを用いて反応管内に固定し、反応時に吸着剤層内の温度差が±1℃以内になるように装着し、反応温度の制御は吸着剤層の中心に挿入した熱電対により行った。
(3) 機能特性評価
これまでの調査結果に基づいて、触媒単位体積当たりの処理ガス流量 (SV)を変え、吸着剤の性能比較を行った。なと、実船搭載時での種々の共存ガスの影響、ハニカム化による重量減少などの影響を考慮し、実船レベルよりも高いSV値を設定し、予め生じる可能性のある問題点を検討した。
 また、吸着性能試験は調査結果から、[1]アイドリング時を想定した100℃での恒温吸着試験、[2]出港時を想定した100℃からの昇温吸着試験の2種類について検討を行った。
(4) まとめ
機能特性評価に基づいて、小型内航船用エンジン排ガス浄化触媒として、特にエンジン始動直後に排出されるNOxを低減するために改良すべき点、及び実証試験における問題点の抽出を行った。
■事業の成果

NOx吸着性能が高いと考えられる銅イオン交換ゼオライト、バリウム−銅複合酸化物、マンガン−ジルコニア複合酸化物について、触媒活性評価装置を用いて
 [1]アイドリング時を想定した100℃の恒温吸着試験
 [2]出港時を想定した100℃からの昇温吸着試験
を行った。
 その結果、マンガン−ジルコニア複合酸化物は、水蒸気が存在し、かつ処理ガス流量が多い条件下でも吸着阻害を受けず、優れたNOx吸着性能を示すことが判明した。
 吸着性能に対するSOxなどの共存ガスの影響やハニカムに成形する技術の開発などの問題が残されているが、本研究で開発されたNOx吸着剤と選択還元触媒とを複合化した新しい触媒システムを構築することにより、エンジン始動時(低温時)からのNOx除去が可能となる。
 本調査研究はアンモニア選択還元触媒と併用することを前提に行ってきた。このアンモニア選択還元脱硝法は技術的にも最も確立されたプロセスではあるが、環境面などに多くの課題も残されている。また、近年ディーゼルエンジン排ガス、コジェネレーション排ガスなどのクリーン化技術の早急な確立が求められており、アンモニアに変わる新しい還元剤、新プロセス・新触媒の開発が必要となっている。
 このような問題点を考慮すると、理想的なNOx除去触媒システムとしては、
 [1]低温域(=エンジン始動時)からNOx除去が可能である
 [2]アンモニア、尿素等の還元剤を必要としない
の2つの条件を満たすものが最適である。これは、港湾付近の大気汚染対策にもなり、また、アンモニア選択還元法の問題点である還元剤使用によるコスト増加や、還元剤保管タンクのスペースの確保による制約などの問題も解決可能である。
 NOxの吸着を利用する本方法は、理想的な脱硝技術の一つである排ガス中の未燃の炭化水素を用いるNOx除去触媒システムへの応用も可能である。また、本方法は船舶のみならず自動車など他のNOx排出源への適用も可能であり、今後これらへの応用展開を考慮した研究開発にも充分活用できるものである。
 以上のことから、本調査研究の成果は当初の目的を充分に達成できたものと確信する。





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