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■事業の内容

本事業は、船舶遭難時の避難・脱出装置のひとつである自由降下式救命艇システムについて、システム全体の性能改善による安全性の確立と設計技術並びに製作技術の高度化に力を注ぎ研究を実施した。
(1) 救命艇の最適形状及び構造等の設計技術の研究
 1. 衝撃圧推定手法の研究
   救命艇の水面衝突時に発生する衝撃荷重を推定するプログラムを改良し、大型模型実験の結果から、その検証を行った。
 2. 着水後艇体運動推定手法の研究
   動揺する母船から発進する場合の運動計算プログラムを作成し、小型模型実験の結果から、その検証を行った。
 3. 艇体応力推定手法および艇体材料の研究
   FRP材試験片による材料試験を行い、材料特性の検証を行った。また、大型模型実験の結果から、FRP構造体のFEM解析による応力解析方法と、強度評価式の妥当性について検証を行った。
 4. 最適形状導出手法の研究
   上記1、2項で作成したプログラムから、衝撃圧を低減し水面突入後の不安定な艇体運動を抑える最適な艇体形状を設計する手法について検討した。また、大型模型実験の結果から、運動・加速度の計算方法と、キャノピー船首部形状の艇体運動に与える影響について検証を行った。
 5 小型模型実験による検討
   動揺する滑台から小型模型艇を発進させる実験を行った。
 6 大型模型実験による検討
   10月初旬に日立因島工場において、6m大型模型による自由降下試験および垂直落下試験を行った。
(2) 最適回収システムの設計技術の研究
[1]最適回収手法の研究
救命艇が救助艇を兼用する場合の回収手法について検討を行った。また、大型模型実験の実験手順書から実際の回収作業に相当する項目を拾い出し、実験での作業を確認し、難易度の評価を行った。
[2] 回収システムの検討
離脱・進水の迅速、確実性、操作の容易性や安全性についてシステムの最適化に関する検討を行った。
[3] 回収システムの設計
[1]、[2]項の検討を基に、回収システムの詳細設計を行った。
(3) 製作技術および総合的試験方法の研究
 [1] 救命艇の試作及び性能評価の研究
   大型模型実験の試験項目と性能評価基準について検討を行った。
 [2] 衝撃緩衝用座席及びシートベルトの試作研究
   4種類のシートベルトを試作し、うち一つを衝撃緩衝座席とともに大型模型艇に装着して、緊急時に要求される特性等を検討した。
 [3] 離脱装置の設計及び性能評価の研究
   4種類の離脱装置の設計を行い、操作の容易性、安全性などの評価を行った。
(4) 衝撃緩衝用座席及びシートベルトの効果の研究
 [1] 人体加速度の緩衝効果の研究
   大型模型実験により、人体ダミー頭部の変位測定およびビデオによる観察からシートベルトの有効性と座席の艇体に対する傾斜角度についての評価を行った。
(5) 報告書
 [1] 規 格  A4版 30ページ
 [2] 部 数  300部
 [3] 配布先及び配布数
  a.配布先  会員、委員、関係団体、省庁等
  b.配布数  300部
■事業の成果

信頼性の高い新たな自由降下式救命艇システムの設計・評価技術を開発することを目的に研究を行い、大型模型による海面への進水・落下実験によりこれまで検討してきた各種推定プログラム等の評価・検証を実施した。
(1) 設計・解析手法
 [1] 数値シミュレーションによって、着水運動や衝撃加速度に対する船型や落下条件の影響を定量的に評価することが可能となった。船型や落下条件を考慮して空中から水中までの自由落下式救命艇の挙動を理論的に求める手法は国際的にも無く貴重である。
 [2] 自由降下式救命艇の衝撃荷重の推定法について検討し、衝撃圧分布・最大値ともに良く推定できるようになった。
 [3] FRP製救命艇のFEM構造解析が可能となった。
(2) 新しい進水方式(二段滑台方式)
 本方式は従来の進水方式の弱点となっていた滑台端部で生ずる拘束落下運動時の船首下げ回転運動を除去することを狙っている。これにより、救命艇は最適な姿勢を保ったまま海面に着水するため、着水後の運動を安定化することができる。本研究では実験等によってこの方式の性能を確認することができた。
(3) 進水・離脱・回収システム
 概念設計の段階であるが、種々の新規提案により、安全・迅速な回収システムの開発に有効な資料を得た。また、救助艇兼用のシステムにも展開できる可能性が見出せた。
(4) 製作技術
 自由落下式救命艇では、水面衝突時に水圧を受ける船底部に発泡浮力材を充填して船殻FRPのパネル剛性を増すことが有効な手段であることが確認された。また、内部構造物と艇体側面を接着するL型二次接合は、特に剛性の高い構造部材に隣接する箇所を除き、適切な接合方法とはいえないことが確認された。





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