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■事業の内容

(1) 海難防止関係
海上交通の国際的性格上、海上安全の確保及び海難防止の問題については常に国際的動向に注目して、これらを斟酌する必要がある。
現在、IMOにおいて、マラッカ・シンガポール海峡の分離通航方式の指定に関する審議が行われているが、同海峡は、多数の日本向け船舶が通航しており、同審議の動向は、日本の海運に大きな影響を及ぼすものである。また、1994年に北欧で発生し、多数の死者を出した「エストニア号」の海難を契機とした「ROROフェリーの安全性」に関する審議は、我が国のカーフェリー等同種旅客船の安全運航に大いに関係を有している。
 このほか、船舶安全の更なる向上を目的として、GMDSSの運用、VDR・AIS等の最新機器の性能基準等も審議されている。
 先進海運国であるわが国としては、積極的にこれらの検討に参画する必要があることから、これら海難防止関連事項を中心に各国の動向を調査するとともに、当協会ロンドン連絡事務所の協力のもと、IMO関連会議に調査員を派遣し、これらの会合における我が国の対応に寄与することを目的として実施した。
 [1] 調査の方法
  a.委員会による検討
    学識経験者、関係団体及び関係官庁で構成する「海難防止の国際的動向に関する調査研究委員会」を開催して、我が国における問題点、対処方針等を検討した。
   (a) 委員会の開催
   イ.第1回委員会を開催して、次の事項を検討した。
   (イ)第69回海上安全委員会(MSC)対処方針について
   ロ.第2回委員会を開催して、次の事項を検討した。
(イ)第69回MSCの審議概要について
   (ロ)第44回航行安全小委員会(NAV)の対処方針について
   ハ.第3回委員会を開催して、次の事項を検討した。
   (イ)第44回航行安全小委員会(NAV)の審議概要について
   (ロ)第70回MSCの審議概要について
  b.関係資料の収集、整理及び解析
    当協会ロンドン連絡事務所との連携のもとに各国の関連情報、関連資料の収集整理及び解析を行った。
  c.IMO会議への出席
    IMO会議で審議される事項については、我が国が慎重・適切に対応する必要がある重要課題であることから、次の会議に調査員を派遣して、委員会における研究結果を踏まえて、当協会ロンドン連絡事務所との密接な協力の下で、我が国の意見の反映を図った。
   (a)第69回海上安全委員会(MSC)
   イ.開催日  平成10年5月11日〜20日
   ロ.場 所  IMO本部(ロンドン)
   ハ.調査員  企画部国際室長 鏡 信春氏
   (b)第44回航行安全小委員会(NAV)
   イ.開催日  平成10年7月20日〜24日
   ロ.場 所  IMO本部(ロンドン)
   ハ.調査員  企画部国際室長 鏡 信春氏
  (c)第70回海上安全委員会
   イ.開催日  平成10年12月7日〜20日
   ロ.場 所  IMO本部(ロンドン)
   ハ.調査員  企画部国際室長 鏡 信春氏
 [2] 調査項目及び内容
   IMO会議の課題である下記の項目について、前年度に引き続き調査研究を行った。
  a.高速船及びAISに関する海上衝突予防規則の見直し
    近年高速船が増加したことにより、在来船と高速船の避航に関して、海上衝突予防規則が対応できない事態となっている懸念から、規則改正を念頭に置いた審議がなされている。
    また、AISは、互いに船舶の名称・針路・速力等のデータを自動的に交信し、レーダー等の画面に表示させることにより、避航時の混乱を回避するものであるが、新たにAIS装備船同士とAISを装備していない船舶間の避航時における混乱を招く可能性が強いことから、同じく海上衝突予防規則の改正をするべきとの意見があるが、必要ないとの意見も強く、混乱の解析と規則改正の必要性の有無について審議されている。
  b.航行安全強化のためのマ・シ海峡の通航方法について
    マ・シ海峡の水路測量が完了し、危険な沈船が撤去されたことから、分離通航方式を延長し、強制船舶通報制度を制定することにより、同海峡の航行安全を向上させるという提案が、同海峡沿岸三カ国であるシンガポール・マレーシア・インドネシアから提案され、航行安全小委員会で承認された。同小委員会の上位会議である海上安全委員会では、同案に関する修正案が沿岸国以外から提案されたが、修正は三カ国と討議の上、必要があれば後日提出するべきとの意見が強く、三カ国提案の早期実施を求める意見が多数を占め、98年12月1日に施行することで採択された。
  c.アメリカ東方沿岸における強制船舶通報制度の導入について
    同通報制度が、動物(小型鯨)を保護するためのものであることから、日本(主に農林水産省)その他の国から、強制船舶通報制度になじまないとの意見が提出されたが、賛成多数により採択された。同案は米国により提出されたものであるが、動物保護に関する概念の違いがIMOにおいても討論される結果となった。近年、IMOは、航行安全のみならず、環境保護・自然保護にも力を入れている傾向があり、今後のIMOの動向、特に環境保護・自然保護と航行安全の世界的なスキームとの関連性について注意深く動向を調査する必要がある。
  d.ドーバー海峡における船舶通報制度と避航水域の導入について
    同提案が航行安全を向上させるものであるとの共通認識から、特段の異議なく採択された。
  e.マラヤン・ズルフ分離通航方式(サウジアラビア)の改正について
    同提案が航行安全を向上させるものであるとの共通認識から、特段の意義なく採択された。
  f.イスタンブール海峡における航行安全
    ロシア連邦南岸唯一の港湾に通じるイスタンブール海峡は、トルコの領海であり、トルコは同海峡の航行安全のため船舶通航管制を行っており、また、同海峡は一部海上衝突予防規則に反する航法が設定されている海域がある。
    航行安全小委員会及び海上安全委員会においては、これら船舶通航管制が不必要であり、海上衝突予防規則に反する航法は解消されるべきであるとするロシア連邦、ギリシャ、キプロスと、航行安全上必要であり、トルコの領海における航行規則に関してはIMOで話し合われるべきではないとするトルコとの間で、毎回激しい討論がなされ多大な時間を消費している。このような議論においてはしばしば仲裁案を提案する米国も、本件に関してはほとんど沈黙を守っている。
    このような状況であるため、この議論は今後とも継続されることとなる。我が国としては、海上衝突予防規則に適合しない航法を行っている来島海峡を有していることから、同海峡の航法を把握するとともに、同審議を注意深く調査し、審議において我が国の例が持ち出された場合には、その必要性を明らかにし、以ってイスタンブール海峡の航行安全にも資することができるようにしなければならない。
  g.WIG Craftの操船面についての規定
    表面効果(船体に取り付けられた翼と海面の間に発生する空力効果)を利用して高速かつ低燃費で航行するWIG Craftは、着水航行から上空飛行まで、操船面において5段階のパターンがある。これらを海上衝突予防規則にどう適合させ、またIMOとICAOでどう仕切り分けをするかについて審議が行われている。
 [3] 報告書の作成
  a.題 名  平成10年度海事の国際的動向に関する調査研究=海難防止関係=
  b.規 格  本 編 A4判  35頁
         資料編 A4判 314頁
  c.数 量  本 編 100部
         資料編 100部
  d.内 容  MSC(2回)及びNAVの審議状況並びに本委員会会議内容
  e.配布先  委員、関係官庁及び関係団体等
 [4] 委員会の開催
   海難防止の国際的動向に関する調査研究委員会  3回
(2) 海洋汚染防止関係
海洋汚染防止の国際的取り決めの基本となるMARPOL73/78条約は附属書<4>(汚水)を除き、附属書<1>(油)、附属書<2>(ばら積みの有害液体物質)、附属書<3>(容器入り有害物質)及び附属書<5>(廃棄物)が既に発効し、国際的に実施されている。
 最近の動きとしては、船舶からの大気汚染の防止に関する新附属書<6>が採択されている。
 また、平成8年1月17日から、わが国においても「1990年の油による汚染に係る準備対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)が効力を生じており、近隣関係諸国との国際協力体制の構築が進められているところである。
 海洋環境問題は、ますます多岐にわたって国際会議の場に提起される傾向にあり、海運主導国であるわが国は、あらゆる問題に積極的に取り組み、国際対応への参画が求められている。
 かかる状況を踏まえ、本事業は海洋汚染防止関連の国際会議へ参加し、国際的な動向を把握し、また関連する国際的な情報の収集を継続的に実施するとともに、情報の解析、問題点の抽出を行い、わが国の適切な対応等を検討することを目的として実施した。
 [1] 調査の方法
   学識経験者、関係団体、官庁関係等で構成する委員会を開催してわが国における問題点、対応方針等を調査、検討した。
  a.委員会による検討
   (a) 第1回委員会を開催して、次の事項を検討した。
   イ.第41回MEPCの概要報告
   ロ.第3回BLGの概要報告
   ハ.第42回MEPCへの対応
   ニ.その他
   (b) 第2回委員会を開催して、次の事項を検討した。
   イ.第42回MEPCの概要報告
   ロ.その他
  b.関係資料の収集、整理、解析
    当協会ロンドン連絡事務所との連携のもとに各国の関連情報、関係資料の収集整理及び解析を行った。
  c.IMO会議への出席
    IMO会議で審議される事項については、わが国が慎重に対応しなければならない重要課題であるため、次の会議に調査員を派遣、出席させ、委員会における研究結果を踏まえて、当協会ロンドン連絡事務所と密接な協力のもとに、わが国の意見の反映を図った。
   (a) 第3回ばら積み液体及びガス小委員会(BLG)
   イ.開催日  平成10年7月6日〜10日
   ロ.場 所  ロンドン
   ハ.調査員  主任研究員 大井 伸一氏
  (b) 第42回海洋環境保護委員会(MEPC)
   イ.開催日  平成10年11月2日〜6日
   ロ.場 所  ロンドン
   ハ.調査員  主任研究員 新村 敏宏氏
 [2] 調査項目及び内容
  a.MEPC及びBLGに関する資料の収集・翻訳及び解析
  b.MARPOL条約に関連する資料の収集・翻訳及び解析
  c.海洋汚染防止に関する国際的事例の資料収集・及び解析
 [3] 報告書の作成
  a.題 名  「平成10年度海事の国際的動向に関する調査研究事業報告書」=海洋汚染防止関係=
  b.規 格  A4判 305頁 印刷製本
  c.数 量  100部
  d.内 容  MEPC及びBLGの審議状況並びに本委員会会議内容
  e.配布先  委員、関係官庁及び関係団体等
 [4] 委員会の開催
   海事の国際的動向に関する調査研究(海洋汚染防止関係)委員会 2回
■事業の成果

(1) 海難防止関係
IMO第69回MSC、第70回MSC及び第44回NAVに調査員を派遣し、アドバイザーとして我が国代表を補佐させ、全世界的な海上遭難・安全システム(GMDSS)の運用、航路指定及び船舶通報制度の強化、海賊問題、エストニア 号海難を契機としてROROフェリーの安全性から取り上げられたVDR(船舶航海記録装置)の性能基準作成、ならびにECDIS(電子海図システム)の性能基準等、これらに対する具体的案件の検討等重要な議題について、我が国の対処方針への意見の反映を図った。
 また、同時に各国の情報収集及び動向調査を行い、これを関係当局及び団体等に提供、有効な活用を図った。
 さらに、委員会での検討事項及び必要な資料について報告書に取りまとめ、海難防止に関する国際的な動向を知ることができる資料として、これを関係当局及び関係団体に広く配布し、海難の防止の推進に寄与した。
(2) 海洋汚染防止関係
本事業は、海洋汚染防止条約等に関する国際海事機関(IMO)の動向を把握するとともに、関係当局及び関係団体等で構成する委員会を開催して、国際会議の審議事項の検討を行い、わが国の対処方針の策定及び行政の円滑な運営に寄与した。
 また、国際会議(MEPC及びBLG)に調査員を派遣して政府代表を補佐するとともに、国際会議の関係資料の収集、翻訳及び解析を行い、これらから得た情報を当局をはじめ、海運及び関連業界等に提供し、有効な活用を図った。
 さらに、関係資料のうち必要な事項については報告書に掲載し、海洋汚染防止のための参考資料として関係機関をはじめ関係団体等に広く配布し、関係者の海洋環境の保全に貢献するところ大である。





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