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■事業の内容

現在、船舶で観測された各種データは、観測後、船舶乗組の人手を介して読取・記録・電報起案、通信士による発信、陸上で電報受信後、形式変換・海洋情報システム等に改めての入力等の手順を経てようやく関係方面への提供となる。観測データのリアルタイム集積・伝送を自動化できるシステムを開発することにより多量なデータの迅速な収集が可能となり、船舶電話の通信衛星移行による船舶電話サービス等の新しい伝送手段を採用することで、より新鮮で精度の高い海洋情報が提供でき、かつ乗組員の業務を軽減できる。
 また日本周辺海域には多くの海底火山が存在し、およそ数年を周期として噴火現象を繰り返している。このような海底火山活動を観測するには、従来航空機・調査船を使用した海表面上の、しかも噴火海域から安全性を考慮して離れた位置からの諸現象の目視観測が主たる手段であり、海底火山活動の状態を的確に把握することは困難であった。
 本事業は噴火海域の海底近傍にハイドロホン(水中マイクロホン)及び海底地震計を仮設し、収録した観測データを直ちに音響伝送により調査船でのリアルタイム観測が可能な海底火山観測システムを研究開発し、併せて船舶航行の安全及び海難の防止に寄与することを目的とし、実施した。
(1) 「船舶観測データの集積・伝送システムの開発」
前年度に引き続き、データ集積・伝送装置のうち、船舶搭載部及び陸上部の本年度分の試作について詳細設計・試作・総合システム評価試験等を以下のように実施した。
 [1] 船舶搭載部の試作
   観測生データの標準化等の前処理、陸上部からの随時リクエストに対する応答ソフト開発、伝送時間短縮のためのデータ量の圧縮及び解凍手法の開発、データの取り込み、記録及び出力各段階のシステム調整等を行い、所定の機能・性能を有する装置の試作を終了した。
 [2] 陸上部の試作
  船舶搭載部に対する随時リクエスト送信を可能とするソフト機能開発、加入電話回線とのシステムの結合調整等を行い、所定の機能・性能を有する装置の試作を終了した。
 [3] 海上実験の実施計画及び準備
   9月末までに海上実験の実施計画立案及び関連機材の整備等の準備作業を行った。
 [4] 総合システム評価試験
   10月に実施し、データ集積、伝送とも良好な結果が得られたことを次のように確認した。
   船舶搭載部:海上保安庁水路部所属 測量船「拓洋」船内に仮設置した。
  ・データ集積
   時刻、位置、針路、速度、水温、流向/流速、気温、湿度、気圧、風向/風速データ及び航海情報が所定の形式、間隔で受信記録部内に集積される。
  ・データ伝送
   集積されたデータ、情報が定時又は手動でNスター及びインマルサットAで送信される。
   陸上部:装置は受託者の横浜事業所内に設置した。
  ・データ受信
   前記船舶搭載部からの送信データ、情報が、所定の形式、内容で受信・記録できる。
  ・データ要求
   定時及び緊急(最新データを送信させる)要求指令により必要なデータ、情報を呼び出し、受信・記録ができる。
   データ要求でNスターでは問題はなかったが、インマルサットAでは呼び出しできない場合があり、後日調査の結果、モデムの調整を行うことで解決した。
 [5] ソフトウエアの改良
   総合システム評価試験の結果を踏まえ細部について若干の修正・改良を行った。
 [6] 報告書
  a.題 名  「船舶観測データの集積・伝送システムの開発その3」
  b.規 格  A4版 81頁
  c.部 数  200部
  d.内 容  開発の経緯・結果を取りまとめて作成する。
  e.配布先  関係官庁、海事関係団体、賛助会員他
(2) 「海底火山活動観測データ伝送システムの研究開発」
 [1] 水中装置の試作[3]
  前年度に引き続き水中装置を構成する地震データ検出部、関連電子回路部、フレーム等作について詳細設計及び試作を継続実施した。地震データ検出部は海底火山活動による上下、左右方向の振動、火山音の検出・記録できる他呼び出し指令信号に応じて記録・データを送信できる機能を有する。
   水中装置全体を支えるフレームは、高さ1.5m×幅1.5m×長さ1.8mの鉄骨フレーム構造とした。このフレーム内部に8個の耐圧ガラス球を使用して装置、電源等を収め、空中重量約550kg、水中重量約137kg、浮上力約23kgとなった。
   又、音響伝送データ量の圧縮の手法と利害得失等の特徴を検討し、誤差率から見ると1/4程度の圧縮では大した効果がないとの結論を得た。
   一方、来年度の実験候補海域の海底状況資料の収集及び海底火山活動状況等事前検討と装置の沈降速度/浮上速度、設置回収の所要時間の見込み、測量船担当者等と作業協力体制の確認等を行った。
 [2] 単体性能試験・検査
   地震データ検出部、音響伝送部等各部に作動について単体試験・検査を行い、予定した性能を有することを確認した。
 [3] 報告書原稿の作成
   研究開発の経緯、内容及び結果等を取りまとめて作成した。印刷・製本は、来年度実施する予定である。
■事業の成果

(1) 「船舶観測データの集積・伝送システムの開発」

 [1] 今年度実施の実海域評価実験の結果、主にNスター船舶電話のサービスエリアの範囲ではあったが、所期観測データ及び航海情報を誤りなく船上から陸上に伝送し、記録される性能、機能が最終的に確認され委員会でも本開発事業は成功であると承認された。この成果を今後各方面に周知し、利活用の機会の増大を図り、本来の目的達成に貢献する基礎を築いたものと評価でき本事業を完了した。

 [2] 事実海上保安庁では、本システムの設計思想と試作実例を評価し、簡易型システムを巡視船に計10隻既に搭載、本格型システムを測量艇計3隻、中型測量船に計3隻分が平成10年度に発注され、平成11年度からは実用に供されることとなった。

 [3] 研究報告書は200部作成し、関係各方面に配布したが、本システムの開発委託先でも、別途注文により50部増刷し、関連会社、ユーザ等への周知・啓蒙のため配布することとしている。

  (2) 「海底火山活動観測データ伝送システムの研究開発」

前年度に引き続いて研究開発を行い、システムの水中装置、船上装置の試作を終了した。来年度、残りの設置及び回収装置の試作等を継続実施することにより全システムの研究開発を終了後、実海域評価試験実施で所期の性能、機能を有することを確認できる見通しが得られた。





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